長期衰退に入った中国、習近平は進むも退くも地獄
Xi’s Dilemma
全国政治協商会議の開幕式に臨む李強首相(右)と習近平(3月4日、北京) FLORENCE LOーREUTERS
<全人代が閉幕したが、習近平の顔がさえない。出口の見えない経済の低迷を「どうしていいかわからない」から重要会議の3中全会も開なかった。「建国の父」ゆえ毛沢東には許された失敗も彼には許されない>
全体主義国家が舞台のSF映画『時計じかけのオレンジ』ではないが、共産党が一党支配する中国も時計じかけで動いているようだ。この国では偉大な指導者による壮大な計画の下、万事が規則正しく機能することになっている。
だが最近はその「時計」が狂い、14億の人民の前で習近平総書記(国家主席)が優柔不断な姿をさらしている。いったい何が起きたのか。
中国共産党の行事は総書記の任期に合わせ、5年周期で繰り返される。まず全国代表大会が中央委員会を選出し、中央委員会は直ちに第1回全体会議(1中全会)を招集して最高幹部の政治局常務委員と総書記を選び、総書記は所信を表明する。
こうした人選はあらかじめ決まっているが、中国では何ら恥ずべきことではない。
全体会議はその後の5年間で6回招集され、なかでも最重要とされるのが「3中全会」だ。1978年には毛沢東のイデオロギーに異議を唱え、93年には鄧小平の改革案を全面的に採択するなど、国の転換点となる決定がなされたのがこの会議だった。
開催時期は総書記が就任してから約1年後の秋。総書記が人事を発表した後、政策の概要を説明し、主に経済の目標を設定するのが通例だ。
3中全会で決定された重要事項は国務院(内閣に相当)に伝えられる。国務院はこれを基本計画にまとめて予算を立て、全国政治協商会議(政協)と全国人民代表大会(全人代=国会に相当)を合わせた翌年春の「両会」を経て、実施に至る。
恐怖と疑念にとらわれて無為無策に陥る
だが今年の両会に、習の基本計画は反映されなかった。というのも、習は肝心の3中全会を開催していないのだ。両会は3月4〜11日まで期間をこれまでのほぼ半分に短縮して開かれたが、全体的に及び腰で特筆すべき成果はなく、恒例の首相による記者会見も中止された。
これには中国ウオッチャーも戸惑った。全てに細かく口を出すことで知られる習が、今回政策を打ち出さなかったのはなぜなのか。
理由は2つ考えられる。まず、習はゼロコロナ政策のような愚策が高くつくことを学んだ。またコロナ禍以降回復傾向にあった経済が昨年の夏に失速したのを受け、国が深刻な経済問題を抱えており有効な解決策が1つも存在しないことをやっと理解した。
結果として恐怖と疑念にとらわれ無為無策に陥った今の習は、「ビュリダンのロバ」に似ていなくもない。この故事に出てくるロバは空腹で喉も渇いているが、右にある飼い葉と左にある水の入ったおけのどちらに行ったらいいのか決められない。ただし習の場合はどちらを選んでも、毒を口にすることになる。
習と前任者たちは国内外で見えから分不相応な目標を掲げ、欠陥だらけの発展モデルを使い尽くして身動きが取れなくなった。
例えば不動産業では開発大手の中国恒大集団と碧桂園が解体されつつあり、経営破綻は2社で済まないだろう。政府が介入しなければ不動産セクターの崩壊が金融市場を破綻させ、中国経済全体に危機をもたらすかもしれない。
一方政府には不動産業に数兆元を投入し、投機を刺激する選択肢もある。だがその場しのぎの救済策は後々問題を悪化させるだけで、習政権が掲げる「住宅は住むためのものであって投機対象ではない」という方針とも矛盾する。
国際関係でも似たような、しかしもっと重大なジレンマに直面している。習はアメリカ主導の世界秩序の弱体化を目指し、西側に浸透して破壊と盗みを行い、その全てを「東昇西降」という挑発的なスローガンでまとめてきた。
一方で、中国は外国人投資家を最も必要としている時期にもかかわらず、彼らを急速に失いつつある。習は中国と西側のデカップリングが中国経済を、特にハイテク部門をいずれ破壊することにようやく気付き、その流れを食い止めようとしている。
確かに習もいくつか譲歩をしている。不動産投機への嫌がらせは止めた。中国の外交官は西側を挑発する戦狼スタイルを抑えている。習自身も昨年11月にサンフランシスコ近郊でジョー・バイデン米大統領と会談した際に、中国は既存の世界秩序を弱体化させるつもりはないと強調した。