最新記事
ウクライナ戦争

【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏

WHY THE COUNTEROFFENSIVE FAILED

2024年2月1日(木)19時14分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

240206p51_RPO_09.jpg

ボランティアがバフムート北部の兵士を慰問し、肉を焼いて振る舞った(同10月) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

勝利は1年後? 4年後?

12月17日、ユーリが初めて訪れたアウディーイウカの野戦病院は負傷兵でいっぱいだった。手術室のベッドは5台。ブルーシートが足りなかったのか、壁の一部は黒いビニールで覆われている。痛みに耐えかねた兵士が、「ウーッ」という声を出す。心拍計のアラーム音が響く。11人の医師とボランティアは、それぞれの手術台で治療に集中している。

ピークを迎えたのはクリスマスイブの12月24日。砲撃を受けた戦車の中で火だるまになったのか、顔と頭がススと血まみれになった兵士が運ばれてきた。次は、左腕にロケットの破片が当たり、縦に3カ所裂けた状態の兵士。左足のアキレス腱に被弾し、裂け目から血が滴り落ちている兵士もいる。

ユーリたちは酸素マスクを兵士の口に当てたり、消毒液を染み込ませたガーゼを用意したりして、治療の援助をした。

今年1月、活動を終えたユーリからメールが届いた。「私たちは10日間、避難車両を運転し、傷ついた兵士を手術台に運び、全ての傷を洗い、医師をサポートした。仮眠できたのは数時間。それも手術台の上だった。これがアウディーイウカだ」

アゾフ旅団のアレクサンドルは今、バフムートの南にあるアンドリーウカで指揮を執っている。ウクライナ軍はこの周辺、約54平方キロの奪還には成功したものの、昨年の秋以降、ロシア軍から繰り返し攻撃を受けている。

銃撃戦で倒れた仲間を救出するため、アレクサンドルはある道具を使うことにした。金属製のフックに長いロープを付けた鉤(かぎ)縄だ。「至近距離での銃撃戦の最中、腰を上げたら最後、やられてしまう。だからこれを負傷兵めがけて投げるんだ」

腕力を振り絞って手繰り寄せた仲間が息絶えていることもある。それでも、生きていてくれと願ってこれを投げる。

シベルスクの分隊長ユージンは前線で年を越した。チェコに避難中の妻や子供と会うことはできなかった。妻はインターネット電話で、「きっとうまくいくよ」と励ましてくれた。

最近、砲弾が不足してきたため、手作りしてしのぐこともある。マイナス14度のいてついた塹壕で戦う部下のことが気がかりだ。

「見てくれよ。開戦初日に出征した兵士が、まだここにいるんだ。みんな精神的にも肉体的にも疲れている。勝利が訪れるのは1年後? それとも4年後? 戦況を逆転させるには何らかの策略が必要だ。戦闘機抜きの攻撃などあり得ない」

PHOTOGRAPHS BY TAKASHI OZAKI

<本誌2024年2月6日号掲載>

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中