オーストラリア、先住民の権利向上をめぐる国民投票「否決」...甘すぎた政府の理想と現実
No to Indigenous Voice
国民投票の否決について「望んだ結果ではなかった」と述べたアルバニージー LUKAS COCHーAAP IMAGEーREUTERS
<アボリジニの未来のため、白豪主義の過ちを償おうとする首相の訴えは理想論としては完璧だったが、誤算と失策に悩まされる結果に>
10月14日、オーストラリアで先住民の権利をめぐる国民投票が行われ、否決された。
是非が問われたのは、「アボリジナル・ピープルおよびトレス海峡諸島民を『最初のオーストラリア人』と認め、その意見を議会に届ける諮問機関ボイスを創設する」ための憲法改正案だった。
否決自体は想定内だったが、その規模は予想をはるかに超えていた。60%もの有権者が政府の改憲案を拒否したのだ。
この結果は人々に内省を促した。否決は先住民に対する国民の姿勢の表れなのか。それとも単に反対派の戦略がうわてだったのか。
多くの疑問が渦巻くが、確かなことが1つある。昨年5月の政権発足以来、改憲に取り組んできた労働党のアンソニー・アルバニージー首相にとって、敗北は甚大な打撃だ。
国民投票を実施したアルバニージーの気骨は称賛に値する。憲法で自分たちの存在を明文化し、諮問機関を設立することを先住民が求めた2017年の「心からのウルル声明」を尊重するという公約を、彼は守ろうとした。
先住民がよりよい未来を築けるようにその6万5000年の歴史を認め、白豪主義の過ちを償おうと、アルバニージーは訴えた。これは理想論としては完璧だったが、いざ改憲を実現しようとすると誤算と失策に悩まされた。
説明不足と先入観も敗因
まず、実現に課したハードルが高かった。改憲には全国の有権者の過半数が賛成票を投じ、なおかつ全6州のうちの4州以上で賛成票が過半数に達する必要がある。
オーストラリアでは1901年から国民投票が44回実施されたが、可決したのは8回。7回は連邦判事の定年や州の債務管理の変更を問うものなどで、超党派の働きかけなしに成立したケースはない。
一方、今回問われたのは理念だった。政府はボイスがどんな機関になるのか具体的な構想を示さず、有権者の承認を得た暁には議会がそうした決定を下すとのみ説明した。
先住民の声を政策に反映しやすくする機関の創設は既に国民の理解を得ていると信じたのも、失敗だった。確かにこの数十年で、裁判や調査が先住民迫害の衝撃的実態を明らかにした。歴史は再検証され、国民の意識も変わった。それでも有権者に改憲への賛同を取り付ける段になると、政府は説得力を欠いた。
22年の総選挙で労働党を圧勝させた民意が再び味方してくれると思い込んだのも、間違いだった。