「とりあえず来ないでほしいのだが...」検問所を閉鎖するエジプトの「本音」と「建前」の中身とは?
EGYPTIAN FEARS
エジプトの「調停力」の重要性
シシ大統領はパレスチナの大義は「全てのアラブ人の大義」だと言い、「パレスチナ人が自分たちの土地に存在し続けることが重要だ」と主張している。要は「エジプトに来ないでくれ」と言いたいのだが、これはエジプトの宗教組織や多くの国民の本音でもある。
それでも最近、北シナイ県の知事が県内の市町村に「必要な場合、避難所として使える学校、集合住宅、空き地などのリスト」を作成するよう命じた。
この動きを見る限り、エジプトも一定数の避難民を受け入れるようだ。ただし、ガザ住民用の避難所は強制収容所並みに移動の自由が制限されるとの見方もある。シナイ半島北部で10年以上も過激派組織「イスラム国」(IS)系列の武装勢力と戦ってきたエジプト軍は、過激な分子の侵入を極度に警戒しているからだと、アナリストらは指摘する。
今年12月に大統領選を控えるシシにとって、難民の大量流入阻止は譲れない一線だ。当局の発表によれば、エジプトは既にスーダン難民30万人を受け入れている。これ以上難民が流入すれば、治安上のリスクに加え、国家財政がパンクしかねない。
ロシアのウクライナ侵攻のあおりでエジプトは目下、経済危機にあえいでいる。通貨の対ドル相場は大幅に下落、物価が高騰し、今年8月には40%近いインフレ率を記録した。
エジプトはもともと、中東においてはイスラエルとアラブ諸国の仲介でその国力以上に大きな役割を果たしてきた。経済が悪化した今も、イスラエルとハマスの戦闘開始でエジプトの「調停力」の重要性は一層高まっている。
イスラエルを支援しつつ、ガザ住民の安全を保障するためにアメリカはエジプトの協力を必要としている。この国が抱える人権問題に目をつぶってでも、今は関係強化を優先すべきだ。