最新記事
お尋ね者

イスラエル地上侵攻の最重要ターゲットはこの男、手足と目と家族を奪われながらも「不死身」のハマス軍事司令官

Mohammed Deif, Che Guevara to Gazans, Bin Laden to Israelis, Faces Last Stand

2023年10月16日(月)20時35分
トム・オコーナー

デイフが伝説上の英雄になるのは、イスラエルにとって厄介極まりない難題だ。イスラエル国防軍軍事諜報部門の研究部門の責任者およびイスラエル戦略問題担当省の長官を務めたヨッシ・クーパーワッサーによれば、デイフが他のハマス幹部、たとえばイスマイル・ハニェ政治局長やガザ地区の指導者ヤヒヤ・シンワルヤと違うのは、「彼が誰よりも象徴的な存在であること」だという。

クーパーワッサーは、デイフをイラン革命防衛隊クッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官や、レバノンのヒズボラの軍事部門を率いるイマド・ムグニエ、アルカイダによる9.11テロの立役者ハリド・シェイク・モハメドになぞらえる。「われわれがそう仕向けたわけではないが、彼は伝説的な人物になっている」

多くのイスラエル人にとって、デイフは9.11テロの象徴になったウサマ・ビンラディンのようなものだ。

ソレイマニは米軍による2020年の空爆で死亡し、ビンラディンは米軍の急襲で2011年に死亡した。ムグニエはCIAとモサドの合同作戦で2008年に殺害され、モハメドは米・パキスタン合同囮捜査で2003年に捕まった。しかしイスラエルの最重要指名手配犯であるデイフだけはまだ逃亡を続けている。

象徴になった影の男

イスラエル情報機関の元職員でアラブ問題担当上級顧問だったアビ・メラメッドは本誌の取材に対し、イスラエル国防軍にとって今は、デイフの捜索に焦点を当てないほうが得策だと語った。最後には逃げおおせるかもしれない「影の男」としての評判をさらに高める可能性があるからだ。

「イスラエルの目下の戦略目標は、ハマスの軍事・組織能力を破壊することだ。やるべきことはそれしかない」と、メラメッドは言う。「個人を追いかけても話は終わらない。捕らえることができるかもしれないし、決して捕らえることができないかもしれない。永遠にわからないどこかの場所に埋葬されるかもしれない。だが、そんなことはほとんど意味がない」

「これ以上、伝説を膨らませる必要はない。彼は残忍な殺人者であり、非常に危険で世故にたけた人物であり、精神的に異常すれすれの人格だ」

だが、多くのハマス支持者にとっては、影から戦争を仕掛けるデイフの謎めいた能力は、長い間、彼が掲げる大義への支持を煽るのに役立ってきた。

ガザのアル・アズハル大学で政治学を教えるムハイマール・アブサダ教授が本誌に語ったように、「彼の存在はハマスの軍事部門にとって重要だ。彼らはデイフを賞賛し、彼のリーダーシップによって刺激を受けている」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中