グローバルな「南」にも「北」にも「配慮」する南アフリカ...「新たな夜明け戦略」に突き付けられる難題とは?
FAR AWAY FROM DAWN
ラマポーザが議長を務めるアフリカ民族会議の選挙ポスター。1994年の民主化以降の絶対的な与党だが、近年は勢いが衰えている WALDO SWIEGERSーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<パンデミック、そしてロシアによるウクライナ侵攻による経済的な打撃...。南とも北とも仲良くするラマポーザ政権が直面していること>
南アフリカの外交にとって、多忙を極めた夏だった。
同国は8月22~24日にヨハネスブルクでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議を開催。約50カ国の首脳らを招いた拡大会合では、グローバルサウスからBRICSとの協働に期待する声が上がった。
議長を務めた南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、「BRICSはグローバルサウスの擁護者になる」と宣言した。さらにアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国が、来年1月1日に新たに加盟すると発表した。
思えば年初から忙しかった。1月にはロシアのセルゲイ・ラブロフ外相、アメリカのジャネット・イエレン財務長官、EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)が相次いで南アフリカを訪れた。
特にラブロフの訪問と、2月下旬に南アフリカ沖合のインド洋沿岸でロシア、中国と3カ国で合同軍事演習を実施したことは、西側から非難を浴びた。
南アフリカは、ロシアのウクライナ侵攻を表立って批判していない。国連で非難決議の投票が行われるたびに棄権しており、ロシアへの暗黙の支持という見方もある。
しかし、こうした投票行動は外交政策の文脈に照らして考える必要がある。
1994年の民主化後に初代大統領を務めたネルソン・マンデラ以降、南アフリカの外交政策は5つの原則に沿っている。すなわち、パン・アフリカニズム、南南協力(開発の進んだ途上国が他の途上国を支援・協力すること)、非同盟、独立、進歩的国際主義だ。
このうち進歩的国際主義とは、与党・アフリカ民族会議(ANC)の定義によると、グローバルな連帯、社会正義、公平な発展、人間の安全保障などの追求を軸とする国際関係のアプローチを指す。
グローバルノースを挑発
マンデラの下で南アフリカは国際社会に復帰し、2国間および多国間関係を大幅に拡大した。マンデラは人権侵害に対する率直な発言で知られ、東ティモールやアフリカなどの紛争解決にも深く関与し、南アフリカは世界から友好的に迎えられた。
マンデラの後継のターボ・ムベキ大統領はアフリカの再生を掲げ、パン・アフリカニズムとアフリカの団結を呼び覚ますことを目指した。
2009年から9年間にわたって大統領を務めたジェイコブ・ズマは、平等、平和、協力を重んじるウブントゥ(他人への思いやり)の精神を重んじ、アフリカだけでなくグローバルサウスにも目を向けた。
そして、続く現在のラマポーザ政権は経済外交を重視する方向に舵を切り、そこに進歩的国際主義へのコミットメントが加わった。
国連改革、グローバルな公平性、グローバルノースの支配を終わらせることなど、進歩的国際主義に基づく南アフリカの主張は、時にグローバルノースから自分たちへの挑戦と見なされることがある。
ラマポーザのスタンスは、南アフリカの外交政策に難題を突き付ける。南アフリカはグローバルノースと強い経済的・政治的関係を維持しながら、グローバルサウスとの強い関係も継続している。後者にはキューバ、ベネズエラ、ロシアも含まれ、その点を西側から批判されている。
国際組織でリーダーシップを
南アフリカは「バランサー」「スポイラー」「善き国際市民」という役割を演じながら、グローバルな地位を追求してきた。
バランサーとしては、非同盟と独立の原則に従い、南北双方との関係を正当化しようとしている。
スポイラーとしては、例えば中国の人権問題は国内問題だとして非難しない。これは中国との南南協力の1つと考えることもできる。そして善良な国際市民としては、国際法の支配と国際規範の維持を支持している。
18年に大統領に就任したラマポーザは、当初は外交政策をあまり重視していなかった。しかし、19年12月に新型コロナの感染が拡大した頃には、アフリカのパンデミック対策を主導するようになった。
南アフリカは世界の勢力バランスの地政学的変化を利用しようとしている。露骨なリアルポリティーク(現実政治)の復活だ。
例えばこの1年に諸外国との合同軍事演習を実施しており、なかでも国連安全保障理事会の常任理事国であるフランスとの演習が注目されている。
南アフリカのソフトパワー外交は、国連機関や文化外交を通じて一定の成果を上げてきた。ただし、多国間組織でのリーダーシップを強化するといった実質的な利益には、必ずしもつながっていない。
さらに、ロシア、中国、インドなど非西側の軍事大国への傾倒は、西側の失望を招いた。連帯、独立、非同盟、進歩的国際主義という外交政策の柱は、外国直接投資の増加など、実質的な経済外交上の利益に結び付いていない。
中国やトルコ、ロシア、インドなどとの貿易は確かに伸びている。しかしラマポーザの掲げる、南アフリカの「新たな夜明け」というビジョンに沿ってインフラを更新し、新たな開発プロジェクトを始めるには、さらに大規模な投資が必要だ。
パンデミック後の国際政治経済の変化は南アフリカにマイナスの影響を及ぼし、ウクライナ危機の経済的な影響がそれを増幅している。西側諸国はウクライナに巨額の資金を投入しているため、対外開発援助を必要とする南アフリカは経済的に脆弱な立場に置かれている。
相次ぐ危機に見舞われ、「新たな夜明け」は先送りになっている。こうした不安定さは外交の舞台にも浸透しやすい。また投資家は、政治腐敗や電力危機がもたらす投資リスクを認識している。
世界的に見て、ロシアのウクライナ侵攻以降、ソフトパワーの外交はやや減退した。新しい地政学的状況に対し、南アフリカは反応するだけでなく、積極的に行動しなければならない。現在のBRICSのリーダーシップに加えて、より大胆な振る舞いが求められているのだ。
そこで、例えば4回目となる国連安保理の非常任理事国を狙い、さまざまな多国間組織でリーダーシップを発揮するために働きかける。そうした取り組みを通じてこそ、自国の国益を支える外交政策目標を積極的に達成できる。
Jo-Ansie van Wyk, Professor in International Politics, University of South Africa
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.