あなたもSNSで連絡もらった? ロマンス詐欺の発信元は貧困に苦しむガーナの若者
ガーナの首都アクラで暮らすカシムは、夜通しオンラインで国際ロマンス詐欺の被害者を見つけては、誘惑することで生計を立てている。 *写真はイメージです Sumandaq - shutterstock
西アフリカ・ガーナの首都アクラで暮らすカシムは、10代の頃には学校のサッカーチームのエーストライカーで「スターフレックス」の愛称で呼ばれていた。
しかし、22歳の今は学業もサッカーも捨て、夜通しオンラインで国際ロマンス詐欺の被害者を見つけては、誘惑することで生計を立てている。
寝室では、スターフレックスとその友人のスレイマン(19)、パトリック(18)の3人が携帯電話やノートパソコンの周りに集まり、出会い系サイトで知り合った被害者候補の「友達」と親密なメッセージをやり取りしていた。
フェイスブックやインスタグラムを渡り歩いてインフルエンサーや女優などの写真を失敬し、出会い系サイトの偽アカウントを作り、結婚相手を探している男性をひっかける。
スターフレックスは、トムソン・ロイター財団に「買い物や料理、友達と遊んでいるところの写真や動画を使って、アカウントを維持している」と手口を明かした。
ガーナでは学校を中退した若者がソーシャルメディア上で個人情報を盗んだり、国際ロマンス詐欺に手を染めるケースが増えている。
ガーナのサイバーセキュリティ当局によると、今年に入ってからのなりすまし詐欺による被害額は、推計4950万セディ(約6億4000万円)に上る。
スターフレックスはトルコ出身の23歳の女子大学院生ジョーンを装い、出会い系サイトで知り合った米国人の不動産業者とチャットしている。不動産業者はジョーンの両親が新型コロナウイルスで亡くなったと信じ、彼女が国外追放されないように5000ドル(約73万円)の学費を負担する気だ。
スターフレックスは「やつは米国から毎月500ドルの生活費を送ってくる。ガーナで1日に50ドルも稼げる仕事なんてあるか?」とほくそ笑む。送られてきたお金は仮想通貨ウォレットで現金化し、シフト制で詐欺を働く仲間と分け合うという。
こうした詐欺が広がる背景には、数十年にもわたるガーナの経済危機がある。貧困が続き、若者の失業率は30%を超える。
「アクラ周辺のスラムでは、子どもの10人に8人がネット詐欺に足を踏み入れている」と、アクラの公立校でITの教師をしているクワドォ・アゲマム氏は話す。「彼らの携帯電話を調べるだけで、ネット上で男性を誘惑するために使うヌード写真が見つかる」─。
貧困の痛み
スターフレックスとスレイマンは、アクラ周辺の貧困地区で育った。2人とも経済的苦難のため10代の頃に自活を余儀なくされ、詐欺に手を染めたと話す。
父親が脳卒中で倒れ、小さな商売を営んでいた母親だけでは一家の食事代に事欠いた時に、スレイマンはスターフレックスから詐欺グループに誘われた。「学校に行くのは大変だった。朝食代も昼食代もなかった」と言う。「スターフレックスは、白人から金を引っ張っていると言っていた。自分も真似をして金を稼ぐことができた」という。