最新記事
ネット

あなたもSNSで連絡もらった? ロマンス詐欺の発信元は貧困に苦しむガーナの若者

2023年8月20日(日)11時11分
ロイター
スマートフォンとペンとハート型の紙

ガーナの首都アクラで暮らすカシムは、夜通しオンラインで国際ロマンス詐欺の被害者を見つけては、誘惑することで生計を立てている。 *写真はイメージです Sumandaq - shutterstock

西アフリカ・ガーナの首都アクラで暮らすカシムは、10代の頃には学校のサッカーチームのエーストライカーで「スターフレックス」の愛称で呼ばれていた。

しかし、22歳の今は学業もサッカーも捨て、夜通しオンラインで国際ロマンス詐欺の被害者を見つけては、誘惑することで生計を立てている。

寝室では、スターフレックスとその友人のスレイマン(19)、パトリック(18)の3人が携帯電話やノートパソコンの周りに集まり、出会い系サイトで知り合った被害者候補の「友達」と親密なメッセージをやり取りしていた。

フェイスブックやインスタグラムを渡り歩いてインフルエンサーや女優などの写真を失敬し、出会い系サイトの偽アカウントを作り、結婚相手を探している男性をひっかける。

スターフレックスは、トムソン・ロイター財団に「買い物や料理、友達と遊んでいるところの写真や動画を使って、アカウントを維持している」と手口を明かした。

ガーナでは学校を中退した若者がソーシャルメディア上で個人情報を盗んだり、国際ロマンス詐欺に手を染めるケースが増えている。

ガーナのサイバーセキュリティ当局によると、今年に入ってからのなりすまし詐欺による被害額は、推計4950万セディ(約6億4000万円)に上る。

スターフレックスはトルコ出身の23歳の女子大学院生ジョーンを装い、出会い系サイトで知り合った米国人の不動産業者とチャットしている。不動産業者はジョーンの両親が新型コロナウイルスで亡くなったと信じ、彼女が国外追放されないように5000ドル(約73万円)の学費を負担する気だ。

スターフレックスは「やつは米国から毎月500ドルの生活費を送ってくる。ガーナで1日に50ドルも稼げる仕事なんてあるか?」とほくそ笑む。送られてきたお金は仮想通貨ウォレットで現金化し、シフト制で詐欺を働く仲間と分け合うという。

こうした詐欺が広がる背景には、数十年にもわたるガーナの経済危機がある。貧困が続き、若者の失業率は30%を超える。

「アクラ周辺のスラムでは、子どもの10人に8人がネット詐欺に足を踏み入れている」と、アクラの公立校でITの教師をしているクワドォ・アゲマム氏は話す。「彼らの携帯電話を調べるだけで、ネット上で男性を誘惑するために使うヌード写真が見つかる」─。

貧困の痛み

スターフレックスとスレイマンは、アクラ周辺の貧困地区で育った。2人とも経済的苦難のため10代の頃に自活を余儀なくされ、詐欺に手を染めたと話す。

父親が脳卒中で倒れ、小さな商売を営んでいた母親だけでは一家の食事代に事欠いた時に、スレイマンはスターフレックスから詐欺グループに誘われた。「学校に行くのは大変だった。朝食代も昼食代もなかった」と言う。「スターフレックスは、白人から金を引っ張っていると言っていた。自分も真似をして金を稼ぐことができた」という。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中