「中国海警局の妨害を排除せよ!」 フィリピン、海軍も待機し座礁船への補給に成功
アユンギン礁を巡っては補給任務を実行しようとしたPCG巡視船や補給船に対して2023年2月には中国海警局船舶から武器管制用のレーザーが照射され、PCG巡視船の乗組員が一時的に視覚障害に陥る事件があった。
さらに8月5日には補給任務に向かったPCG巡視船と補給船に対して中国海警局船舶が進路を妨害し、放水銃による放水を浴びせる事態も発生。この時は危険と判断したPCG側が補給を断念している。
食糧や生活物資の補給は「シエラマドレ号」に常駐する比海兵隊員にとっては「生命線」であることから8月5日の事態を受けてマルコス大統領は「決してフィリピンはアユンギン礁を見捨てることはない」との立場を改めて表明、中国に厳しく抗議した。
しかし中国側は「中国の海洋権益が及ぶ海域に比側が侵入したので法に基づいて対処した」と持論を繰り返すだけだった。
こうした事態に米政府が米比相互防衛条約を持ち出して中国に警告するとともに、中断している米比海軍による南シナ海での共同パトロールの早期再開や日米豪がフィリピン西部沖海域で合同海軍演習を計画。南シナ海での軍事的緊張の高まりへの懸念を中国が慎重に見極めているものとみられている。
誰が撤去を約束? 比国内で論争
中国側は「シエラマドレ号」に関して「比側が撤去を約束したにも拘わらず実行されていない」と主張して比側を批判、海警局船舶の行動を正当化している。
これに関して、フィリピン国内では「誰がそんな約束をしたのか」と犯人捜しが続いている。エストラダ大統領、アロヨ大統領など歴代大統領自身あるいは関係者、親族が「そんな約束を中国とはしていない」と全面否定し、マルコス大統領も「そんな約束は存在しないし、もし存在するなら即座に廃棄する」との姿勢を示している。
フィリピンのマスコミは「中国寄りだったドゥテルテ前大統領の政権時代に口約束でもしたのではないか」との疑いが浮上していることを伝えているが、ドゥテルテ前大統領周辺はこうした憶測を否定するなど、真相は闇の中となっている。
いずれにしろ今後も続くことが確実な「シエラマドレ号」への補給任務に対して中国がどう対応するのかが焦点となっている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など