最新記事
奪還

集落奪還はゼレンスキーが待ちに待ったブレイクスルー、ウクライナは内部崩壊寸前だった

Ukraine Counteroffensive Achieves Breakthrough Zelensky Desperately Needed

2023年8月17日(木)20時08分
ブレンダン・コール

追い詰められていたゼレンスキー(2022年10月25日、キーウ) REUTERS/Gleb Garanich

<小さな集落に過ぎないとはいえ、ロシアの防御線を突破しアゾフ海に達する足場になる上、何より遅々として進まない反転攻勢に国内の不満も抑えきれなくなっていた>

<動画>ウクライナ軍が奪還した村から蟻のように逃げ出すロシア兵

ウクライナ政府はロシア軍が占領していた東部の村ウロジャイノエを奪還したと発表した。

反転攻勢の開始から2カ月余り。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にとって、これは喉から手が出るほど欲していたブレイクスルーだ。

ウクライナ東部ドネツク州のこの村は、ウクライナ軍がロシア軍の占領下から解放すべく、6月4日前後に大規模な攻撃を開始した同州西部の複数の村の1つ。

反転攻勢が期待通りに進んでいないことは、ウクライナ政府も認めていた。ウロジャイノエ村の奪還は、7月27日に発表された近隣のスタロマイオルスケ村の解放に続く2つ目の成果だ。

「ウロジャイノエが解放された」と、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官はメッセージアプリ・テレグラムで伝えた。「村の周囲でわが軍が防護を固めている」

本誌のメールでの問い合わせメールに対してロシア国防省は、村を失ったことを認めていない。だがテレグラムでは、ロシア軍はウロジャイノエ地域で引き続きウクライナ軍に砲撃と空爆を加えていると発表した。

ウロジャイノエ村はロシアの防御線の北側、ロシア軍が占領するアゾフ海北岸の都市マリウポリに向かうルート上に位置する。ロシア軍が何層にも築いた防御陣地の攻略に手間取ってきたウクライナ軍と、その苦戦ぶりを見守ってきたウクライナの人々にとって、この村の奪還は胸のすく成果だろう。

戦い続ける新たな理由に

「ブレイクスルーといっても、あくまで相対的にだ」と、ロシア軍の戦略に詳しいイタリア・ボローニャ大学の研究員ニコロ・ファソラは本誌に語った。彼によれば、ウクライナ戦争が始まる前のこの村の人口は1000人前後にすぎなかった。

だがたとえ寒村であってもその奪還は「ウクライナのプロパガンダと情報戦にとって大いに意義がある」という。「西側に目に見える成果を示し、『われわれは善戦している。引き続き支援してほしい』と言えるからだ」

ゼレンスキーは奪還の知らせに救われたはずだと、ファソラはみる。先週には、国外に逃れた徴兵対象者から賄賂を受け取った疑いでウクライナ各地の徴兵センターの責任者が解任されたニュースが報じられたが、ファソラによれば、この突然の解任劇も、反転攻勢の遅れに不満が広がるなかで、世論の目をそらす苦肉の策と解釈できるからだ。

こうした状況下で、「ウロジャイノエ奪還は、戦い続ける新たな理由として、国民を鼓舞する有効な材料となる」と、ファソラは言う。「そういう意味でブレイクスルーなのだ」

ウロジャイノエ村は、ロシア軍のウクライナ侵攻の総司令官だったセルゲイ・スロビキン(ワグネルの乱に加担した疑いで、現在は自宅軟禁中)が2022年暮れに命じて建設させた防御線、いわゆる「スロビキン・ライン」から北へ8キロ余り離れている。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中