中国との共同事業のインドネシア高速鉄道、ソフト開業を延期 安全性確保のため
残る安全性への不安
KCICは6月22日に速度356キロを記録する最高速度試験走行に成功し、走行時の安定性、静粛性が確認されたとしていた。これを契機に独立記念日翌日のソフト開業、10月の営業運転開始という工程が具体的に動き始めた。
このとき、ブディカルヤ・スマディ運輸相は「10月の営業運転開始も8月に前倒しになるかもしれない」と計画が順調に進んでいることを強調、楽観的な見通しを示していた。
ただ一方で通常、営業運転開始前の試験走行には安全性を100%確実とするために繰り返し各種試験を数カ月から1年かけて実施するケースが多い中、6月22日から約2か月でのソフト開業には安全面で不安が払しょくできないとの声も出ていた。
今回、独立記念日に関連したいわば国を挙げてのイベントが、実施約10日前に延期されるという事態に、そうした不安が現実のものになったと見方もある。
KCICは問題点を明らかにする義務
6月22日の最高速度試験走行の「成功」を受けてソフト開業への期待を表明していた閣僚や関係者はこれまでのところ今回の延期に対して反応しておらず、期待を裏切られたとの思いを抱いている可能性もある。
その際に「今後日本製の中古車両の輸入は認めない」との趣旨の発言をして、高速鉄道計画の中国発注に煮え湯を飲まされた形の日本に「当てつける」ような姿勢を示したルフット・パンジャイタン調整相もさぞ「臍を噛んでいる」こととみられる。
ジョコ・ウィドド大統領が実際に試乗してのソフト開業の試験走行で「万が一の不確実性の存在や不具合の発生も許されない」状況の中での延期は、今後の「早急なスケジュール」にも影響を与える可能性がある。
なによりもKCICは今回の延期の理由がどこにあるのか、技術的な問題なのか運行上の問題なのか、それともそれ以外の問題なのかを明らかにする義務があるだろう。
そうした問題点を明らかにすることで安全性に対する不安を払拭することがなにより求められているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など