最新記事
ウクライナ

米軍がウクライナ兵に教えた戦術は間違っていた、これからは従来の戦法で

Why U.S. War Tactics Are Failing in Ukraine

2023年8月7日(月)18時02分
エリー・クック
米兵

ロシアのウクライナ本格侵攻を受けてヨーロッパに派遣される米兵たち(2022年3月11日、ジョージア州ハンター陸軍飛行場) Sam Wolfe-REUTERS

ウクライナ支援のために、NATOはウクライナ軍を訓練し、新たな戦法を短期間で教え込んだ。だが、その戦法はウクライナ軍が制空権を獲得していないため、うまく機能していないとアナリストらは見ている。結局、ウクライナ軍は、ロシアの防衛線を突破するために、従来の戦法を再び採用しはじめているようだ。

 
 
 
 

夏の反攻開始から2カ月以上が経過しているが、ウクライナ軍はこれまで、アメリカが提供する戦車や装甲車などの装備とともにNATOの戦闘スタイルを軍隊に取り入れてきた。

だがニューヨーク・タイムズ紙は8月3日、NATOの訓練が期待されたほどの成功を収めていない可能性を示唆した。「ウクライナの軍隊はアメリカ式の戦闘方法を退け、熟知している従来の戦法に戻した」と、同紙は報じている。

専門家が本誌に語ったところによれば、その主な理由はひとつ。NATO諸国は諸兵科連合、つまり軍隊内の異なる兵科(兵種)が一体となって機能することを重視する。ウクライナ軍がNATOの戦術を使って成果を上げるためには制空権の確保が必要だが、今のウクライナ軍にはそれができない。

「西側のアプローチが効果的に機能するためには、あらゆる戦闘能力が必要であり、その重要な要素が航空戦力だ」と、かつてイギリスとNATOの化学・生物・放射性物質・核防衛部隊を指揮していた元英陸軍大佐ヘイミッシュ・ド・ブレトン・ゴードンは言う。

片手を縛られた戦い

西側諸国はウクライナに数百億ドル規模の安全保障能力強化支援を行っているが、この支援にはアメリカのF-16のような西側の戦闘機やNATO標準の攻撃ヘリコプターは含まれていない。

反攻作戦が開始される数時間前、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、ロシアの航空戦力が圧倒的に優勢で、ウクライナは防空体制が不十分であるというこの現状は、今後数カ月で「多数の兵士が死ぬ」ことを意味すると語った。

ロシアの航空戦力に対抗する欧米の戦闘機がなければ、ウクライナ軍は「少なくとも片手を後ろに縛られて戦っている状態だ」とド・ブレトン・ゴードンは本誌に語った。「私にとっては、これが最も重要なことだ」

専門家によれば、NATOの戦闘スタイルは、空を支配することに大きく依存しているため、近年はNATOが制空権を確保している場所でしかテストされていない。

「NATO軍の現存メンバーで、過去18カ月間にウクライナ人が経験した戦闘に近いものを経験した者はいない」と、ハーグ安全保障研究センター(HCSS)の戦略アナリスト、ディービス・エリソンは本誌に語った。「NATOは陸戦のやり方について何十年も投資と訓練を重ねているが、それが本格的な対国家戦争で真剣に試されたことはない」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中