最新記事
ロシア情勢

元情報将校で著名ブロガー・ギルギンの逮捕は、ロシア軍や国粋主義者の怒りを招く?

Igor Girkin's Arrest Points to Kremlin Power Struggles

2023年7月24日(月)17時33分
エリー・クック

裁判所の被告席に座ったギルギン。2014年マレーシア機撃墜で有罪になった戦犯でもある(7月21日)Yulia Morozova-REUTERS

<古巣のロシア連邦保安局(FSB)の支援を受け、プーチンを名指し批判しても野放しにされてきたギルギンの逮捕は、FSBのロシア政府に対する影響力の低下を示している可能性もある>

【動画】ロシア軍兵士を殲滅した「殺人光線」の正体は?

ロシアの著名な軍事ブロガーのイーゴリ・ギルキンが7月21日、逮捕された。ギルキンはウクライナ侵攻の進め方を巡る政府批判の急先鋒。今回の逮捕は、ロシア政府内の権力闘争の表れではないか、と指摘されている。

逮捕当日、メッセージアプリ「テレグラム」のギルキンの公式チャンネルに、ギルキンが同日午前11時30分に古巣であるロシア連邦保安局(FSB)の関係者に向けて過激な活動を扇動した容疑で逮捕されたとするメッセージが投稿された。投稿したのはギルキンの妻だ。

ギルキンはイーゴリ・ストレルコフという別名でも知られ、2014年以降、ウクライナ東部で親ロシア派武装組織の司令官を務めたこともある人物だ。一部の欧米諸国からは戦争犯罪者とみなされている。2014年にウクライナ東部でマレーシア航空の旅客機が撃墜された事件では、他の3人とともに乗客乗員298人を殺害したとして有罪判決を受けている。

ギルキンはモスクワで逮捕された後、裁判所に出廷。9月18日まで勾留されることになった。

ギルキンのテレグラムの公式チャンネルには82万人以上のフォロワーがいる。ギルキンはこれまで、ウクライナ侵攻を巡るロシア政府の対応を大っぴらに非難し、ロシア軍の戦略や「作戦上の失敗」に関する分析を発表してきた。逮捕の数日前にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「役立たずの臆病者」と呼び、プーチンの下ではロシア政府は「あと6年もたないだろう」と発言していた。

他の軍事ブロガーの「反発」はいかほどか

だがアメリカのシンクタンク、戦争研究所(ISW)が22日に発表した分析によれば、今回の逮捕からは、「ロシア政府内の派閥のパワーバランスの変化」と、FSB内部の「激しい権力争い」が見て取れるという。

ギルキンは特定のFSB工作員の支援を受けていた可能性が高く、FSBから偽造パスポートを手に入れることもできたとISWは指摘する。一方で、ギルキンの立件にはFSBの一部門が関与していることから、ISWはこれがFSB内部の分裂を示唆していると見ている。

「ギルキンがロシア政府に対する敵対的な姿勢を強める中で」、FSBの複数の幹部が「ギルキンの保護をやめると決断を下した」可能性があるとISWは指摘する。そうでなければ、一部で伝えられるようにロシア政府上層部に対するFSBの影響力が弱まっていることが逮捕の背景にあると考えられるという。

イギリス国防省はギルキンの逮捕について、他の著名な軍事ブロガーや、ロシア軍の軍人たちの「強い反発を招く可能性がある」との見方を示した。彼らにとってギルキンは「鋭い軍事アナリストであり愛国者」だからだ。

ロシアの軍事ブロガーたちはしばしば極右の国家主義者とされ、彼らの発言は、ウクライナ侵攻に対するロシア軍の支持の度合いを測るバロメーターにもなっている。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中