最新記事
反転攻勢

ウクライナ軍に本格反攻の兆し? ドニプロ川の渡河に成功すれば、戦況はロシアにとって悪夢に変わる

Ukraine Crossing Dnieper River Would Be a Nightmare for Russia

2023年7月5日(水)22時00分
ブレンダン・コール

ゲパルト自走式対空砲の上に上ったウクライナ兵(6月30日、キーウ近郊)  Valentyn Ogirenko-REUTERS

<イギリス国防省高官によると、ウクライナ軍はヘルソン州のアントノフスキー橋付近に部隊を再配備している。もしドニプロ川を渡ってこられたらロシア軍は止められないのではないか、という不安がロシアに広がっている>

<動画>ウクライナ特殊部隊、ロシア軍の塹壕で「敵10人を殺害した」映像を公開

ロシアでは、自国が支配するドニプロ川東岸でのウクライナ軍の動きと、それが戦況に与える影響について、不安が広がっている。

アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は、ウクライナ軍はヘルソン州でドニプロ川を渡ることができるが、ロシア軍はそれを止められないのではないか、というロシア側の懸念に焦点を当てた分析をしている。

ロシアの前線に穴

イギリス国防省の複数高官によると、ウクライナ軍は6月23日以降、ヘルソン州にあるアントノフスキー橋付近に部隊を再配備しているという。対してロシアは、ザポリージャの防衛を強化するため、南部軍管区のドニプロ軍集団から部隊を移動させたようだ、と述べている。

ロシア国内では、さらなるウクライナ軍の前進を阻むために、DGFのうち10個の連隊と旅団の兵力を増強するべきだとの声が高まっている。

「もしウクライナ軍がドニプロ川東岸に到達して拠点を築けば、ロシアにとって戦況は大きく変化する」とドイツのシンクタンク、ヨーロッパ・レジリエンス・イニシアティブ・センターの創設者セルゲイ・スムレニーはニューズウィークに指摘した。

スムレニーによれば、ウクライナ軍がドニプロ川東岸に拠点を作れたら、ヘルソン州からさらに南下してクリミア半島に進出し、半島を封鎖することも可能になる。それと同時に、より北のザポリージャ州の都市ベルジャーンシクを目指して進軍できる可能性もあるという。アゾフ海に面する港湾都市だ。

「そうなれば、クリミア半島とベルジャーンシクに挟まれた地域にいるロシア軍は弾薬などの補給を受けられず、負傷兵を避難させる手だてもないまま孤立させられることになる」と、スムレニーは語る。「ゆえにロシア側にとって、ウクライナ軍によるこれらの方向への攻勢は悪夢だ。ウクライナ軍が両方向で作戦を成功させれば、ロシアにとっては最悪のシナリオとなる」

「どちらか片方でも、ロシアにとっては非常に悪い兆候になるだろう」とスムレニーは付け加えた。

親ロシア派の複数のテレグラム・チャンネルは6月の時点で、ウクライナ軍の部隊が、アントノフスキー橋近くの、ヘルソン市とドニプロ川を挟んで対岸にあるダチという村を奪還したと伝えた。一方でロシア国防省は、自国軍がウクライナ軍を押し返しているという主張を続けている。

スムレニーによれば、ウクライナ軍は現時点ではまだ、ドニプロ川の渡河に関してさほど大規模な作戦を展開してはいないという。これは、橋頭堡を築くために大きな戦力を失うリスクを負うだけの価値はないと今のところ判断しているからだとみられる。
(翻訳:ガリレオ)

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中