最新記事
イタリア

エロくて下品で豪快な「政界のドン」ベルルスコーニが逝く

Death of the “Teflon Don”

2023年6月20日(火)13時10分
バービー・ラッツァ・ナドー(ジャーナリスト、ローマ在住)
シルビオ・ベルルスコーニ

Guglielmo Mangiapane-REUTERS

<好物はトップレスの女性。盟友はカダフィとプーチン。疑惑と暴言で世界を騒がせ、転落のたびに何度もはい上がってきた大物政治家の生涯について>

第2次大戦後のイタリアで最長の在任記録を誇ったシルビオ・ベルルスコーニ元首相が、何より望んだのは「人々に愛される」ことだった。

国際政治の舞台でも、若き日に歌手デビューしたクルーズ船でも、6月12日に86歳で亡くなるまで彼が求め続けたのは群衆の拍手喝采──まさに承認欲求の権化だった。

公式に政権の座を降りたのは2011年11月。黒塗りのリムジンで首都ローマのクイリナーレ宮殿を訪れ、ジョルジョ・ナポリターノ大統領に辞意を告げた。だがその後も陰の大立者としてイタリア政界に君臨し続けた。

ベルルスコーニを辞任に追い込んだのは経済の悪化に対する庶民の怒りだった。政権を失い悄然とする彼を乗せ、運転手は行く手をふさぐ野次馬を避けつつベネツィア広場の私邸へとリムジンを走らせた。

車に銅貨を投げ付ける者、「マフィア、泥棒!」と唾を吐く者。沿道には腐敗した指導者の失脚を祝って「ハレルヤ」を歌う即席のコーラスグループまで現れ、いかにもイタリア人らしい皮肉な祝賀セレモニーが繰り広げられた。

イタリアでは政権交代は日常茶飯事だが、ベルルスコーニの転落劇には特別な意味合いがあった。「テフロンのドン」と呼ばれた彼は首相官邸を去る日まで数々の疑惑でメディアを騒がせてきた。

その1つが10年に発覚した17歳のダンサー、ルビーとの性的スキャンダルだ。彼女が窃盗容疑でミラノ警察に逮捕されると、ベルルスコーニが手を回してすぐに釈放させた。取り調べで余計なことをしゃべるのを恐れたのだ。

だが警察に圧力をかけたと批判されると、ベルルスコーニはルビーがエジプトのホスニ・ムバラク大統領(当時)の親族だと思い込んでいたので釈放を指示したと言い訳した。

それは真っ赤な嘘で、ルビーはミラノ郊外のベルルスコーニの別荘で開かれるブンガブンガなるパーティーで客をもてなすダンサーだった。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な

ワールド

ミャンマー地震、がれきから女性救出 死者2000人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中