最新記事
中国

「ムチとムチ」──摘発と粛清でテック産業を育てようとする中国

Discipline and Control

2023年4月28日(金)12時30分
ダン・マックリン(政治アナリスト)
習近平

習が推し進める摘発と粛清、監督強化が実を結ぶ保証はない  ALY SONGーREUTERS

<米中対立激化でテクノロジー開発を急ぐ習政権。反汚職キャンペーンで産業育成を目指すが......>

2012年秋に習近平(シー・チンピン)体制が誕生して以来、中国政府は反汚職キャンペーンに力を注いできたが、ここ数年はそれが新たな重要性を帯び始めている。

米中対立の激化を背景に、中国政府はテクノロジー分野での外国依存を弱めるため、規律と統制という過去に例のない手法を採用し始めた。その一環として汚職の摘発を強化しているのだ。

中国共産党で汚職取り締まりを担う中央規律検査委員会は21年秋以降、政府の金融当局の高官たちを立て続けに調査対象にしてきた。銀行保険監督管理委員会や中国証券監督管理委員会、さらには中国人民銀行(中央銀行)の幹部が共産党から除名されたり、死刑判決を受けたりしている。

政府高官だけではない。招商銀行、中国銀行、中国光大集団などの金融機関の元トップたちも相次いで調査の標的になっている。

汚職の根絶や資本の非効率の解消そのものは、これまでも習政権が目指してきたことだ。しかし、アメリカによる対中制裁や輸出管理を受けて、この政権はテクノロジーの自給強化を国の重要目標と位置付けるようになった。

それに伴い、テクノロジー産業の有力投資家を反汚職キャンペーンの標的にするケースが増えている。この分野における腐敗が中国のテクノロジー産業の成長を妨げていると考えているためだ。

テクノロジー分野に注力している投資銀行の華興資本では、創業者で会長の包凡(パオ・ファン)が2月以降身柄を拘束されている。これに先立って、同社の社長を務めた叢林(ツォン・リン)も取り調べの対象になっている。

産業界を萎縮させる?

これとは別に、半導体産業を標的にした摘発も目立つ。半導体産業の育成を目的に設立された政府系投資基金「国家集成電路産業投資基金(CICF)」(通称・ビッグファンド)の多くの幹部たちが調査対象になっているのだ。

摘発や粛清と並行して、中国政府はテクノロジー産業への投資に対する監督の在り方も大きく改めた。3月には、共産党中央委員会が直轄する中央科学技術委員会を新設して、科学技術分野を監督させることが発表された。

この新体制の下で、重要性の乏しい業務を他省庁に移管する一方で、重要なテクノロジーの開発を促進する科学技術省の役割が強化された。これにより、適切な投資を後押ししようというのだ。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中