「独裁者を任期制」にする国際法を真剣に考える時期にきている
HALTING THE AUTHORITARIAN DRIFT
例えば取り巻きに便宜を図ると約束して資金を調達したり、対立候補を狙い撃ちするために公的機関を利用したりといった具合だ。
判断の基準になるのは「メリット」だ。職にとどまることのメリットと、退くメリットの差がものをいう。職にとどまるメリットが退くメリットより大きければ大きいほど、指導者は権力の座に強くしがみつく。
そして政治指導者が任期を延ばすために陰謀や悪事にふけるほど、いざ退陣となると、その道筋はよろしくないものになる。
ここでICCの逮捕状の話に戻ろう。プーチンは長年にわたって国際司法の限界に挑んできたが、ついに彼の責任を問う公式な手続きが始まった。こうなると、彼はさらに必死になって権力にしがみつくだろう。
現在の「つながっている」世界では、プーチンのような振る舞いはグローバルな摩擦を生み、国連やICCのような機関が対処しなくてはならない。その際、国際法がカバーする範囲を拡大すべきなのは明らかだ。
従うべき「世界憲法」を制定することを考えてもいいかもしれない。将来に向けて議論すべき点は山積みだが、差し当たって必要なのは指導者の任期制限だ。任期制を導入するか否かは、既に当該国だけが決める問題ではない。
どこかの国で権力の歯止めが利かなくなると、世界中に波紋が広がる。そのときに国際法を用いて支配者が強権的な体制に傾かないようにすることは、全ての人の利益になる。各国の任期制限に大きなばらつきがある今こそ、それぞれの国に責任を問えるような統一基準を作るべきだ。
カウシク・バス
KAUSHIK BASU
インド出身の経済学者で、現在は米コーネル大学教授(経済学)を務める。過去にはインド政府の首席経済顧問(2009~12年)、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミスト(12~16年)などを歴任。