最新記事
ウクライナ情勢

バフムト陥落でもその先にロシア軍を待つ地獄

Russia's advancement past Bakhmut could come at a high price: ISW

2023年3月9日(木)16時10分
カイトリン・ルイス

ロシアから奪還したヘルソンを訪ね、兵士を労うゼレンスキー。バフムトでも迎撃準備は整っている?(2022年11月14日) Ukrainian Presidential Press Service/REUTERS

<消耗しきったロシア軍にはバフムトを越えて進撃する余力がない上、ウクライナ軍は要塞を築いて待ち構えている>

ロシア軍は激しく消耗しており、ウクライナ東部の要衝で勝利したとしても、大きな代償を払うことになる可能性が高い――米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が、こう指摘した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月7日、米CNNとのインタビューの中で、もしもウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍がバフムトでの戦いに勝利すれば、ロシアが国内のその他の主要都市に進軍する「道が開かれる」ことになると語った。

だが戦争研究所は同日に発表した分析の中で、ロシア軍には、バフムトを制圧してウクライナのその他の主要都市に進軍するだけの「能力が不足」していると指摘した。

同シンクタンクは報告書の中で、「ロシア軍はバフムト占領後、2つに分岐した進軍ルートのうち、どちらかを選ばなければならないだろう」と指摘した。「ロシア軍は消耗しており、進軍成功の可能性を少しでも高めるためには、どちらか一方のみを優先しなければならない可能性が高い。だがロシア軍の司令官は、ウクライナへの軍事侵攻を開始してから繰り返し、複数の進軍ルートに部隊を配備してきた。手を広げすぎだ」

ISWはさらに、ウクライナ側は「これら2つのルートの両方を要塞化し、国土の奥深くに続く補給線も確保している」と指摘。「ロシアが進軍を試みれば、大損害を被る可能性が高い」と分析した。

バフムト陥落でもロシアの勝利は遠い

米情報機関のある当局者は以前、本誌に対して、ロシアがウクライナでの戦いに敗れるのは時間の問題だと語った。またロイド・オースティン米国防長官も6日、バフムトはプーチンにとって「戦略や作戦上の価値というよりも、象徴的な意味が大きい場所」だと述べ、陥落したとしても戦況が大きく変わることはないとの見方を示した。

またアメリカの複数の当局者は、ロシア軍がウクライナの前線で失う兵士の数が、最大で全体の70%にものぼると推定している。

戦争研究所は7日の分析の中で、ロシア軍には、バフムトを越えて進軍するのに必要な「機械化部隊がない可能性が高い」とも指摘。ロシア政府は機動戦よりも、要塞地帯の正面攻撃に適した大隊規模の「突撃分遣隊」に頼るようになってきているとの見方を示した。

同研究所は報告書の中で、「ロシア軍は、より簡略化された戦術を用いる小規模な突撃分遣隊に戦闘を任せることが増えている。このことと、実戦の準備ができている兵士の犠牲が増えていることを合わせて考えると、ロシア軍がバフムト制圧後に開かれる進軍ルートにおいて、有効な作戦を展開できる能力は、大幅に制限されることになる可能性が高い」と指摘した。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中