ミャンマー軍政、クーデター2年で戒厳令拡大 スー・チーには弁護団と面会させず
刑務所内では一般の服役囚もおり面会に訪れる親族もいるが、一般服役囚の目にも触れない場所でスー・チー氏は服役しているものとみられ、12月の結審以降全くその動静が外部に伝わってこない状況となっている。
これは軍政がスー・チー氏、ウィン・ミン氏を完全に孤立化させて精神的ダメージを与えると同時に、民主政治復活を求めて軍政と武装闘争を続けている武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」などの戦闘意欲をくじくことを意図しているとみられている。
スー・チー、反軍政運動の若者を称賛
ネピドーの刑務所内に設けられた特別法廷でスー・チー氏と会ったことがあるNLDの元議員マウン・マウン・スエ氏はスー・チー氏が反軍政運動に携わる若者を称え、尊敬していると述べたという。
「彼女は革命に関与している全ての若者を称賛し、『彼らに協力して助けるように。党の全員が彼らと共に働くように』との伝言を託した」としている。
スエ氏は裁判で禁固2年の実刑判決を受けて服役中だったが2022年11月に恩赦で釈放され、スー・チー氏の言葉を明らかにした。
スエ氏は11月の恩赦でネピドー刑務所から釈放されていることから、スー・チー氏の若者へのメッセージは11月以前、まだ公判中の時期のものとみられる。
弁護団が法廷でのスー・チー氏の様子や発言などをメディアなど外部に漏らすことを軍政が禁じて以来、久々のスー・チー氏の「声」として武装して軍政に抵抗する市民らには力強い言葉となったのは間違いない。
こうした「外部漏洩」を阻止するためにも軍政側は弁護団の面会を不許可としているものとみられており、人権団体や欧米などは「基本的人権を妨害している」として軍政を厳しく非難している。
戒厳令を拡大、抵抗勢力への弾圧強化
軍政は武装市民による抵抗が根強く各地で激しい戦闘が続いていることなどから、それまでヤンゴンなど7郡区に出していた戒厳令を2月2日に北部サガイン地方域やチン州など8地方域・州の37郡区に拡大。22日には新たにサガイン地方域の3郡区への戒厳令を追加した。
戒厳令下では行政や司法の全権が軍に移譲されることとされ、今後各地で軍政による弾圧が一層強化される懸念が高まっている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など