最新記事

銃規制

ブラジル、銃規制強化に「暗雲」 暴力で抵抗するボルソナロ支持者たち

2022年12月18日(日)10時55分

銃器ライセンスが4年間で500%増加

ソウ・ダ・パス研究所のランジーニ氏は、一般市民が合法的に保有するアサルトライフルは4万─7万丁と推定している。ランジーニ氏をはじめとするルラ氏のアドバイザーは、市場価格に見合った価格で強制的に買い取るとすれば、政府は1丁あたり1万5000─2万レアル(約39万─52万円)を拠出することになり、国内で最も危険な銃器の一部を回収できると話している。

ボルソナロ政権による銃規制緩和を受けて、70万人近いブラジル国民が「CAC」、つまり「狩猟、スポーツ射撃、収集」目的として登録し、銃器を確保している。CACライセンスの発行数は、2018年以来、約500%増加している。

だが、こうした銃保有者に対する監督は非常に弱い。ブラジル公共治安フォーラムによれば、銃所持許可が期限切れ又は無効となった銃保有者を軍の監査担当者が直接訪問した件数は、昨年は622件、銃器の押収は400丁以下にとどまった。国内の少なくとも10州では訪問調査をまったく行わなかったが、これら10州の住民は約8000万人を数える。

ジェフェルソン事件は、まさにそうした状況で発生した。

ジェフェルソン氏は「民主主義に敵対する行為」を計画した罪を問われてブラジルで最も著名な服役者の1人となり、その後自宅軟禁に移されたにもかかわらず、自宅でアサルトライフル1丁、タンフォリオ製9ミリ拳銃1丁、「大量の弾薬」、そして禁止対象である手りゅう弾を保有していたと自ら証言した。

またジェフェルソン氏は警察に対し、現在20─25丁の銃器を保有しており、一時は100丁も持っていたと述べた。

軍によれば、ジェフェルソン氏は2005年以来CACライセンスを持っていたが、10月の銃撃事件の後、停止された。

ジェフェルソン氏の弁護士であるルイス・グスタボ・クニャ氏は、ジェフェルソン氏はそうした銃器を自宅に保有する法的な資格を有していると説明。「国民から武器を取り上げたいとする政治家は、彼ら(国民)を奴隷にしたがっているのだ、と依頼人は考えている」とクニャ弁護士は言う。

あふれかえる銃

ルラ新政権にとって、障害になるのは監督状況の弱さだけではない。

政権移行チーム関係者は、悪用の意図なく高価な他国製銃器を購入したCACライセンス所持者から訴訟を起こされる可能性を危惧している。

今年、ブラジルの拳銃輸入額は、11月までで、昨年通年の2倍近い7500万ドル(約103億円)相当と過去最高の水準に達した。

セキュリティー・アシスタンス・モニターがまとめた米国の公式統計によれば、ブラジルはボルソナロ政権下で、米国製民間用銃器の輸出市場として上位10位にランクインし、2018年には26位だった順位は今年9位にまで上昇した。米国からブラジルに向けた銃器輸出額は、4年前には320万ドルだったが、今年は10月末までで過去最高の1330万ドルに達している。

需要の高まりを背景に、銃保有に寛容な法制を支持する有権者の声も大きくなっている。

10月の選挙では、銃保有支持派の候補の新しい波が生じた。彼らは保守色を強める連邦議会で議席を確保し、米国式の銃所持に寛容な法制を推進しようとしている。

全米ライフル協会(NRA)を手本とするロビー団体「PROARMAS」のトップであるマルコス・ポロン氏は、連邦議員として初当選を果たし、活気ある銃器セクターを抑圧しようとするルラ氏の取り組みに抵抗すると述べている。

「政治的な復讐(ふくしゅう)心から一夜にして銃器産業を丸ごと破壊しようとするのは、独裁的な手法だ」とポロン氏は言う。「スポーツとしての射撃を楽しみ、合法的な自衛権を行使する人々の権利を保障するために、連邦議会が抵抗するものと信じている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中