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「驚異的かつ前例ない」宇宙で発電しマイクロ波で地上へ送電...折り紙に着想のプロジェクト、試作機打ち上げ

2022年12月6日(火)16時40分
青葉やまと

クリーンな電力を大胆な手法で実現へ

サイテック・デイリーはこの取り組みについて、「かつてSFと考えられていた」構想が「いまや現実に近づいている」と述べている。

アトウォーター氏はサイテック・デイリーに対し、「これは驚異的かつ前例のないプロジェクトです」と述べ、特異性を強調する。クリーンな電力の確保という地球規模の課題を解決するには、相応に大胆な取り組みが必要となる、アトウォーター氏は考えているようだ。

「クリーンで安価なエネルギーを世界に届けることは、この時代における最も重要な課題のひとつとなっています。それに取り組むために必要な大胆さと野心を示す、良い例となるでしょう」

パネルの小型化、折り紙からインスピレーションを得る

実現への課題は複数あった。そのひとつが、発電パネルの小型化だ。現在地上でソーラー発電に用いられているセルは、単位面積あたりの質量も発電効率も、プロジェクトが目標としている数値に届くものではなかった。

研究に参加しているアリ・ハジミリ研究員は、「一連の実証から私たちが学んだことがらのひとつとして、太陽光発電の手法を根本的に変えなければならないことがわかりました」と振り返る。これまで宇宙空間でも用いられたことのない新たなセルを、チームは開発した。

だが、打ち上げへの課題は残った。打ち上げロケットに搭載可能なサイズには制限があるため、巨大なパネルをそのまま載せることは到底できない。

そこでチームが注目したのが、折り紙の技法だ。研究チームのセルジオ・ペレグリノ氏はサイテック・デイリーに対し、次のように語っている。

「折り紙にインスパイアされた革新的な折り畳みの技術の採用により、打ち上げられる巨大な機体の容積を大幅に削減することができました。かなり密にパッケージングされているので、ほぼ空き空間がない状態です」

軽量構造の発電施設、今後は耐久性の検証などが課題に

研究チームでは引き続き、実用化への挑戦を続けている。アトウォーター氏、ハジミリ氏、ペレグリノ氏の3名がそれぞれ、太陽光発電、構造設計、マイクロ波送電という得意分野を持ち寄ることで、夢だと思われたプロジェクトは実現へ一気に近づいたという。

打ち上げ可能な質量に収めるため、チームではマイクロ波送電用の構造部などに、宇宙空間でまだ実績のないフレキシブルで軽量な素材を使用している。こうした方式の耐久性を検証していくのも今後の重要な課題だ。

ゲーム「シムシティ」の世界では、送電ビームが地上の受信ディッシュから外れてしまうと大事故に発展する。高出力の電波を安全にいかに送信するかも課題のひとつとなるかもしれない。

かつてSF物語と考えられていた安価でクリーンなエネルギーの普及に向け、重要なマイルストーンとなる12月の打ち上げに期待が寄せられている。

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