「宇宙でもっとも明るい光!」ブラックホールからのジェットが輝く仕組みが明らかに
活動銀河核から噴出するジェット (ESO/M. Kornmesser)
<超大質量ブラックホールが放出するジェットが輝く仕組みが解明されつつある......>
超大質量ブラックホール(SMBH)は降着円盤(重い天体の周囲を公転しながら落下する物質によって形成される円盤状の構造)の中で渦巻く物質を飲み込み、降着円盤に対して垂直方向に高速粒子の強力なジェットを2本放出する。これらのジェットのうち、地球をまっすぐ向き、正面で観測したものを「ブレーザー」と呼ぶ。ジェットの粒子がこれほどの高エネルギーになる仕組みはまだ解明されていない。
2021年12月9日にアメリカ航空宇宙局(NASA)とイタリア宇宙機関(ASI)によって打ち上げられた「IXPE」は、X線の偏光を高感度で撮像できる世界初のX線偏光観測衛星だ。2022年3月8日から10日および26日から28日の計6日間、地球から約4億6000万光年先のヘルクレス座にある
ブレーザー「マルカリアン501」のX線偏光を観測した。一連の観測データを分析した研究論文が2022年11月23日付の学術雑誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表されている。
ブレーザーのX線を初めて詳しく観測
宇宙からのX線は大気に吸収されるため、X線の電界配向や偏光の程度などを地上の望遠鏡で観測することはできない。これまでもブレーザーからの低エネルギー光の偏光を調べた研究はあったが、粒子を加速させる源の近くで放射されるブレーザーのX線を詳しく観測できたのは今回が初めてだ。X線の偏光測定データを他の周波数での観測から導き出されたモデルと比較することも可能となった。
研究論文によると、「マルカリアン501」のX線は約10%偏光していた。これは、これまで光学波長で観測された値に比べて約2倍大きい。しかし、偏光の方向はすべての波長で同じであり、ジェットの方向とも一致していた。
この観測データを理論モデルと比較すると、「衝撃波が『マルカリアン501』からのジェットの粒子を加速させている」というシナリオに最も近かった。衝撃波に最も近づくと、加速度が最大になってX線が発生し、ジェットに沿って外側へ向かうと、粒子はエネルギーを失って低エネルギー光を放射すると考えられている。
ブレーザー「マルカリアン501」を観測する IXPE (Pablo Garcia/NASA/MSFC)
ジェットの流れに乱れが生じると、その一部が超音速になる」
衝撃波は周囲の物質の音速よりも速く動くときに発生する。ジェットの粒子を加速させた衝撃波の起源については不明だが、研究者たちは「ジェットの流れに乱れが生じると、その一部が超音速になる」との仮説を示し、その原因として、ジェット内での高エネルギーの粒子の衝突やジェットの境界での急激な圧力変化などを挙げる。
研究論文の共同著者で米ボストン大学の天文学者アラン・マルシャー教授は「衝撃波がその領域を横切ると、磁場が強くなり、粒子のエネルギーが高くなる。そのエネルギーは、衝撃波を生成する物質の運動エネルギーに由来するものだ」と解説している。
「IXPE」は2年のミッションでより多くのブレーザーを観測する計画だ。「マルカリアン501」についても観測を続け、時間とともに偏光が変化するかどうかを調べていく。