「もうどうでもいい」 逆襲ウクライナの「急所」を、気まぐれイーロン・マスクが握る不安
Rich Men Aren't Saviors
マスクの意味不明なツイートやスターリンク支援に関する一貫性の欠如を見れば、地政学的状況が急速に変化する今の時代に、持続可能なネット接続環境の維持を民間企業に依存することのデメリットは明らかだ。
いつの時代にも、敵の通信インフラを制圧することは戦争の常道だった。だから敵からの攻撃に強いネット接続環境の構築は、今後の武力紛争で重要な課題となるだろう。真に回復力のあるネット接続環境の確立には、信頼性の高いインフラ構築と最新のサイバー防衛技術に国家レベルで先行投資する必要がある。そうしないと、マスクのような人物に振り回される。
現在のスターリンクは場当たり的に調達され、法的な根拠もない。だからウクライナにとって信頼できるネット接続環境とは言い難い。元米空軍大佐のディーン・ベラミーに言わせれば、スペースXは現下の戦争に「政府との契約なしに関与し、紛争の帰趨に影響しかねない意思決定や政策に影響を与えている」。
スターリンクだけが選択肢ではない
一方、ウクライナ軍を支援する非営利団体「国家安全保障強化のための全ウクライナ基金」のユーリイ・ブツソフ代表は、ウクライナ軍の指揮命令系統にスターリンクを正式に組み込み、全ての指揮官と司令部に端末を配布すべきだと提案している。そのためにはウクライナ政府がスペースXと包括的な長期契約を結び、技術サポートと中断なきサービスの提供を約束させる必要があるだろう。
そうすればウクライナにある端末の数や資金の出所、維持費や利用料なども明らかになり、スターリンク運用の透明性が確保される。当然、スペースXにはしかるべきインフラ投資の義務が生じる。理想を言えば、ウクライナで使う端末の修理施設も整備したいし、敵による不正な接続を遮断するシステムも欲しい。
しかしスターリンクだけが選択肢ではない。米国防総省のサブリナ・シン副報道官によれば、ウクライナでネット接続環境を維持するにはグローバル市場で入手可能な代替技術にも目を向けるべきだ。シンは10月14日の記者会見で、国防総省がウクライナの衛星通信インフラを支援する複数の選択肢を検討していることを明らかにした。
米軍の防衛先端技術研究計画局(DARPA)は数年前から「ブラックジャック」というスターリンクに似たネットワークの開発を手がけており、昨年6月には衛星2基の打ち上げに成功している。米宇宙開発庁も、ミサイル追跡などの軍事活動を支援するため、分散型センサーを搭載した大型衛星群の打ち上げを計画していると伝えられる。