文革で学習能力が欠如する習近平ら「一強」体制が、うかうかできない理由とは?
Finally, Red Guards Over China
後に、この措置については蔡が会議で以下のような厳しい指示を出していたことが分かった。「最前線では本物の武器を使え、銃剣で血を流せ、武力を使え......あんな火災が二度と起きたら、おまえたち全員のクビが飛ぶぞ」
ひどく乱暴な話だが、驚いてはいけない。習近平は人民大会堂のひな壇で、前国家主席の胡錦濤に恥をかかせ、力ずくで退席させた。そんなことが許されるなら、蔡奇のしたことも許容範囲だ。
台湾侵攻を阻む勢力
習が10年前から使っているお気に入りのスローガンがある。「実幹興邦、空談誤国(地道な仕事が国を興し、空論は国を誤らせる)」だ。元は鄧小平が経済改革・開放の標語として使ったものだが、習はこれをねじ曲げ、「問答無用」の意味で使っている。
この強引な手法を、習近平は国外でも貫くつもりだろうか? 台湾の民主的政権も力ずくで追い落とそうとするだろうか? むろん、彼にためらいはない。党大会の政治報告でもそう言っている。
だが国内で政敵との壮絶な戦いを始めてしまった今、台湾攻めに乗り出せば内側から足を引っ張られる恐れがある。なにしろ共青団派や江沢民派にとって習近平を「台湾解放」の英雄に仕立ててしまうのは自らの墓穴を掘ることに等しい。
ただし、他国との外交関係は別だ。強引な「戦狼外交」を邪魔する者はいない。党大会の開催中にもイギリスで、ひどい事件が起きている。マンチェスターの中国総領事館職員が、香港の民主化を求める抗議デモ参加者の髪を引っ張って領事館の敷地内に連れ込み、まるで紅衛兵のようなやり方で殴打したのだ。
その一方、習と同じ1953年に生まれ、習と全く同じように文革の時代を生き抜き、「戦狼外交官」の代表と呼ばれる外相の王毅(ワン・イー)は、このたび晴れて政治局入りを果たした。つまり、マンチェスターで起きた醜悪な外交ドラマと北京での熾烈な政治ドラマは一本の糸で結ばれている。だから世界は覚悟すべきだ。この先も、中国では何が起きてもおかしくないと。
練乙錚(リアン・イーゼン)
YIZHENG LIAN
香港生まれ。米ミネソタ大学経済学博士。香港科学技術大学などで教え、1998年香港特別行政区政府の政策顧問に就任するが、民主化運動の支持を理由に解雇。経済紙「信報」編集長を経て2010年から日本に住む。