欧州からアフリカに数千キロを移動する蛾、風がふいてもまっすぐ移動していた
小型無線送信機を装着して、飛行経路を追跡した...... (C)Christian Ziegler / Max Planck Institute of Animal Behavior
<欧州とアフリカへと4000キロ以上を移動する蛾のヨーロッパメンガタスズメの飛行移動を追跡すると、風の状態や地形に応じて軌道を修正し、直線的な飛行経路を維持していた......>
周期的に規則正しく生息地を移動する「渡り」の習性を持つ昆虫は多種多様に存在し、ときには数千キロもの距離を移動する。これらの昆虫は優れたナビゲーション能力を持ち、風の吹くまま移動するのではなく、好条件を選んで移動できることがわかっているが、移動中の風の変化にどのように対応しているのかはこれまで解明されていない。
秋に欧州から南へと移動、春に戻ってくる
独マックス・プランク動物行動研究所(MPIAB)らの研究チームは、超小型追跡装置を用いてチョウ目ススメガ科のヨーロッパメンガタスズメの飛行移動を追跡することに成功した。2022年8月11日に学術雑誌「サイエンス」で発表された研究論文によると、ヨーロッパメンガタスズメは風の状態や地形に応じて軌道を修正し、直線的な飛行経路を維持していたという。
背面に髑髏のような模様を持つことで知られるヨーロッパメンガタスズメは欧州やアフリカに生息し、アルプス山脈以北で冬を過ごすことはできない。成虫は5~6月の春に欧州に現れ、次の世代の成虫は8~10月の秋に地中海、アフリカ北部あるいはサハラ以南へ向かうと考えられている。
様々な風の状態に対応し、最長で4時間約90キロを移動
研究チームはヨーロッパメンガタスズメ14匹に重さ0.3グラム未満の小型無線送信機を装着。夜間に移動飛行するヨーロッパメンガタスズメを追って受信アンテナを搭載したセスナ機が飛行し、5~15分ごとに正確な位置を検出した。
その結果、ヨーロッパメンガタスズメは目的地に向かって一直線に、直線的な飛行経路を維持し、最長で4時間にわたり約90キロを移動するものもいた。また、様々な風の状態に対応し、追い風では風下を飛行する一方、向かい風や横風では地面近くまで低く飛行し、軌道を調整したり、飛行を制御しやすいように速度を上げる行動がみられた。
夜行性の昆虫の移動飛行が追跡されたのは初めて
研究チームは、このような追跡結果をふまえ、「ヨーロッパメンガタスズメには高度な体内コンパスが備わっているのではないか」と考察している。
夜行性の昆虫の移動飛行がこれほど長時間で詳細に追跡されたのは今回が初めてだ。昆虫が鳥に匹敵するほど優れたナビゲーション能力を持ち、風の状態に対応して直線的な飛行経路を維持することを示した点でも、重要な発見といえる。今後は、ヨーロッパメンガタスズメがどのようなメカニズムで移動しているかについて、さらなる解明がすすめられる見込みだ。