最新記事

宇宙

ブラックホールによって引き裂かれた星の結末が明らかに

2022年7月21日(木)18時50分
松岡由希子

星のガスのかなりの部分がブラックホールから外向きに吹き飛ばされる(credit:NASA / CXC / M.Weiss)

<恒星がブラックホールによって引き裂かれた後、何が起こったのかを調べた....>

星が超大質量ブラックホール(SMBH)に近づくと、その巨大な潮汐力によって引き裂かれ、スパゲッティのように細長く引き伸ばされる。これを「潮汐破壊現象」という。

米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは2019年10月、地球から2億1500万光年離れたエリダヌス座の渦巻銀河で100万倍以上の質量のブラックホールが引き起こした太陽のような恒星の潮汐破壊現象「AT2019qiz」を観測。

この恒星の死から放出された光の偏光をとらえ、この恒星が引き裂かれた後、何が起こったのかを調べた。一連の研究成果は2022年6月24日に「王立天文学会月報(MNRAS)」で発表されている。

恒星の物質の多くが秒速1万キロもの高速で吹き飛ばされた

2019年10月8日の分光測定では、この恒星の物質の多くが秒速1万キロもの高速で吹き飛ばされ、球対称のガス雲を形成したことが示唆された。研究チームの推定によると、この球状のガス雲の半径は約100AU(天文単位:約150億キロ)。これは地球の公転軌道の100倍に相当する。

研究論文の共同著者でカリフォルニア大学バークレー校の天文物理学者アレクセイ・フィリペンコ教授は「潮汐破壊現象でスパゲッティ化した恒星の周辺のガス雲の形状を推定したのは今回が初めてだ」と解説する。

この観測結果は、これまでに観測された数多くの潮汐破壊現象で、X線などの高エネルギー放射線が観測されなかった理由の裏付けにもなっている。恒星から引きはがされた物質によって発生し、ブラックホールの周囲の降着円盤に巻き込まれるX線は、ブラックホールからの強力な風で外側に吹き飛ばされたガスによって見えなくなる。

ブラックホール周辺のガスに何が起こっているのか

研究論文の筆頭著者でカリフォルニア大学バークレー校の大学院生キショア・パトラ氏は「この観測結果によってこれまで理論的に提唱されてきたいくつかの説が排除され、ブラックホール周辺のガスに何が起こっているのか、より限定的に考えることが可能となった」とその意義を強調する。

このような潮汐破壊現象は地球から遠く離れているため、その現象の幾何学的形状や爆発の構造を研究することはできない。フィリペンコ教授は「偏光を研究することで、その爆発における物質の分布などを推論することはできる」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中