最新記事

米中関係

米中「離婚」はやっぱり無理? 戦略なき対中強硬路線が自滅を招く

NOT DIVORCED JUST YET

2022年7月21日(木)16時30分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

インフレ圧力を受けて、バイデン政権は中国をめぐる発言をいくらかトーンダウンさせ、トランプが導入した対中制裁関税の一部撤廃を検討し始めている。

「中国政府は非対称なデカップリングを追い求め、世界に対する中国の依存を減らす一方で、世界の中国依存を高めようとしている。だが米経済、あるいはグローバル経済から中国経済を切り離すことは望んでいない」。アントニー・ブリンケン米国務長官は5月下旬、ジョージ・ワシントン大学での演説でそう語った。

習の強硬策の下で経済成長が大きく減速するなか、中国側にも路線転換の兆候がいくつか見える。監査をめぐる中国当局の規制のせいで、アリババなどの中国企業はアメリカでの上場廃止のリスクにさらされていたが、そうした規制の一部が緩和されたとの報道がある。

それでも、より広い意味でのデカップリングがある程度進行していることも、貿易データに表れ始めている。新型コロナのパンデミックの収束傾向で、安価な消費者製品の需要が激増するにもかかわらず、昨年のアメリカの対中物品貿易は2018年のピーク時を下回ったままだった。

「パンデミック直後の耐久消費財などの爆発的需要を考えると、関税や制限措置がなければ、米中間の物品貿易は昨年、間違いなく過去最高に達していたはずだ」。WTO(世界貿易機関)の元紛争処理担当者、ニコラス・ランプはそう話す。

専門家の間には、さらに大幅なデカップリングがゆっくりと自然発生的に起きるという声もある。人権への懸念が消費者の決断に影響を与え始めている状況では、特にそうだ。

衛星での失敗を半導体でも

中国をはじめとする低賃金国への生産移転を取引メーカーに強いた世界最大の小売企業ウォルマートも、強制労働や人権侵害を理由に新疆ウイグル自治区からの輸入を禁じる法案がアメリカで成立したことを受けて、同自治区産品の排除に乗り出したとされる。同社の動きは、中国国内で大きな反発を巻き起こした。

それでも、米企業は中国にとどまる手段を探っている。米メディアが昨年12月に報じたところでは、フェイスブックは「中国企業の広告で巨額を稼ぎ続けて」おり、アップルの同年7~9月期純売上高の4割は中国が占めていたという。

行きすぎたデカップリングはアメリカにとって脅威になる。「アメリカの安寧と影響力の土台である技術基盤は、世界規模の技術ネットワークにおいて中国と徹底的に絡み合っている」と、カーネギー国際平和財団のジョン・ベイトマン上級研究員は最近の研究で指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中