最新記事

ウクライナ戦争

西側の対ロ制裁は時間切れ、戦争はプーチンの勝ち?

Putin Capitalizes on Western Uncertainties to Pursue War Goals in Ukraine

2022年7月20日(水)11時00分
ジェイレン・スモール

インディアナ大学ブルーミントン校のエコノミストであるミハイル・アレクセーエフは、これらの収入源に加えて対外債務が低水準にあることで、ロシアは一連の制裁の最悪の影響を回避できているのだと指摘。「ロシア市民が飢えに苦しむことはない。飢饉が起きることはないだろう」と彼はNPRに述べた。「ただ彼らが生産・消費できるものの種類が減っていくだけだ」

アレクセーエフは、制裁の効果は、どれだけの時間をかけたかによって変わってくると述べた。

「制裁の目的が、ロシア経済を迅速かつ完全に崩壊させることならば、効果は出ていない。ロシア経済は今も機能している」「だがもしもその目的が、時間をかけてロシア経済を弱らせていくことならば、一連の制裁は100%機能していると言えるだろう」

だが残念ながら、制裁の支持者たちには「時間切れ」が迫っているかもしれない。

駐米ロシア大使のアナトリー・アントノフは、本誌とのインタビューの中で、西側諸国は一連の制裁のしっぺ返しを食らうことになるだろう、と警告した。

「制裁によってロシア経済を押さえつける計画は、うまくいかない」「無分別な規制は、米経済の状況をいっそう悪くするだけだ」と、彼は主張する。「米政府は、不可能なことを両立させようとしている」

の世論の支持は低下傾向

ジョー・バイデン米大統領は「必要である限り」ウクライナへの支援を続けると宣言しているが、最近の複数の世論調査によれば、米国内での食品およびエネルギー価格の高騰(それぞれ前年比で9%近くと7.5%高騰)を受けて、対ロシア制裁への支持は低下しつつある。

ジャーマン・マーシャル財団のストークスは、その理由について、「多くの人は、ウクライナでの戦闘はきわめて迅速に収束するだろうと見込んでいた」と指摘する。

しかし、そうした見方に反して戦闘は5カ月目に突入。usinflationcalculator.comによれば、2022年6月までの12カ月のアメリカのインフレ率(年率)は、9.1%に達している。ロナルド・レーガン大統領(当時)の就任1年目だった1981年(10.33%)以来、最も高い水準だ。

調査会社モーニング・コンサルトの調査データによれば、アメリカの有権者のうち、国内の物価高騰を招いても対ロシア制裁を支持する人は47%と、4月の56%から減っている。ウクライナを守るのはアメリカの義務だと考えている有権者はさらに少なく、全体のわずか44%だった。

米上院外交委員会のメンバーで、6月にマドリードで開催されたNATO首脳会議の会合にも出席したクリス・クーンズ上院議員は、この世論の変化を大いに懸念している。

「幅広い国で、戦争の経済的コストや戦争が突きつけるその他の差し迫った問題を受けて、国民の間に戦争疲れが生じることを懸念している」と、彼はニューヨーク・タイムズ紙に語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パナマ運河、紛争時に中国が閉鎖する恐れ 米国務長官

ワールド

EU、防衛費増額GDP比2%超で合意へ 6月NAT

ワールド

メキシコ、関税懸念でも25年成長率目標を2―3%に

ビジネス

12月鉱工業生産速報は前月比+0.3%=経済産業省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中