ウクライナ戦争「どちらが勝利に近いか」を言えない理由
戦闘が続く東部セベロドネツクをウクライナの軍車両が移動する(6月2日) SERHII NUZHNENKOーREUTERS
<開戦から100日が過ぎた。軍事アナリストたちの分析により詳細な戦況は明らかになっているが、戦争の全体像は不透明なままだ>
ウクライナ戦争が始まって既に100日余り。戦争がどこへ向かっているかは、混迷を深めるばかりだ。
2月24日にロシア軍が侵攻を開始した当初は、数日もしくは数週間以内にウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落するという見方が一般的だった。この時点で6月になってもまだ戦闘が続き、ウクライナのゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はいなかった。
軍事アナリストたちの分析により、現時点でどちらの部隊がどの地域を押さえているかという詳細な戦況は明らかになっている。
しかし、アナリストたちも認めているように、戦争の全体像は不透明だ。どちらが勝利に近づいているともはっきり言えない。
その1つの要因は、双方にとっての「勝利」と「敗北」の定義が明確でないことだ。
ゼレンスキーは2月24日より前の境界線が回復されれば、ロシアのプーチン大統領との交渉に応じる用意があると述べている。
ここで言う2月24日より前の境界線の回復とは、ウクライナ領からロシア軍が全て撤退することを意味するのか。その中には、東部のドンバス地方全域も含まれるのか。開戦前に親ロシア派武装勢力が支配していた地域にロシア軍部隊がとどまることは受け入れるのか。また、クリミア半島の扱いはどうなるのか。
一方、プーチンとその周辺は、ゼレンスキー政権を欧米の帝国主義者に操られたネオナチ勢力と非難し、ウクライナが主権国家として存続することに異を唱えている。
この姿勢を崩さなければ、プーチンにとってゼレンスキーとの交渉などあり得ない。
プーチンが考える「勝利」とは、ドンバス地方を占領するだけでなく、実質的にウクライナという国を消滅させることを意味するのだ。
いずれにせよ、双方とも差し当たりは戦闘をやめたいと考える理由がない。ロシアもウクライナも、遠くない将来に決定的勝利を収められるかもしれないと期待している可能性があるからだ。
最近、ロシア軍はウクライナ軍の陣地に対してロケット砲による攻撃を強化している。ウクライナ軍のロケット砲はこれより射程が短く、有効な反撃ができていない。
バイデン米大統領は、ロシア軍のものに匹敵する射程を持つロケット砲をウクライナ軍に提供することを表明した。これにより、戦況が大きく変わる可能性がある。