ロシアと欧州、ウクライナめぐり「ガス対決」で共倒れのリスク
ウッド・マッケンジーの首席アナリスト、カテリナ・フィリペンコ氏によると、欧州のガス貯蔵量は、春から夏にかけては特段需要を抑えなくても十分かもしれない。とはいえ、何らかの対策を講じない場合、10月末までに貯蔵率が10%程度の水準で次の冬に突入しかねないという。
欧州では既に価格高騰で消費者や産業界が打撃を受け、各国政府が悪影響緩和のために何十億ドルもの財政支出を行っている。それでも他の地域からより多くのLNGを集めるには、欧州の卸売価格がアジア市場の指標LNG価格よりも高止まりする必要がある。
EU欧州委員会のシムソン委員(エネルギー)は、3月の欧州議会で「ガスプロムと長期契約を交わした企業は、われわれがLNG市場で支払うよりも大幅に安い価格でガスを受け取っている。このため、今後のエネルギー価格に重大な影響が生じるという点を、われわれは認識しなければならない」と強調した。
自滅行為
ロシアも、財政資金として大事な収入源がなくなる恐れが出てくる。
ガスプロムが公表した直近データによると、昨年1─9月に欧州とトルコ、中国に輸出したガス1760億立方メートルの代金として、2兆5000億ルーブル(310億ドル)を受け取った。
SEBリサーチのアナリストチームは「ロシアにとって、供給制限という判断は、自らの足を撃つ行為だ」と説明する。
今回の大統領令がルーブル相場の下支えを狙ったのだとしても、効果は長続きしない可能性がある。
フィッチ・ソリューションズのアナリストチームは「大統領令は、(欧米の)制裁によってただでさえロシア中央銀行の外貨資産利用が著しく制約されている局面で、ロシアの重要な外貨獲得源を切り捨ててしまうことになる」と述べた。
欧州の買い手は、ルーブル決済への移行が契約違反と繰り返し主張。ガスプロムが訴えられ、多額の賠償金支払いを迫られる展開もあり得る。
もう1つの疑問は、ロシアが欧州に供給するガスを止めた場合、そのガスをどう活用できるのかという点だ。ロシアのマトビエンコ上院議長は最近、アジア市場に供給先を切り替えられると発言した。
しかし、ロシアが欧州に送るガスをアジアに輸出できるようにするパイプラインは存在しない。別の産地から中国に供給するパイプラインはあるが、これと欧州向けのパイプラインもつながっていない。
アジア勢としても、ロシアから購入を増やすのをためらうのではないか。SEBリサーチのアナリストチームは「(ロシアは)自分自身でガスを他国に供給する道を封じている。ロシアがちゅうちょなくガスを武器として使う姿勢をはっきり見せているとすれば、例えば、中国ないしインドがロシア産ガスに頼る路線を選ぶ公算が、いったいどれだけあるだろうか」と述べた。
むしろロシアは、国内貯蔵を増やすしかなくなるかもしれない。国内貯蔵能力は720億立方メートル前後で、それと別にガスプロムは、欧州で90億立方メートルを貯蔵できる。
ガスプロムは2020年に2380億立方メートルだった国内ガス需要が26年までに2600億立方メートルに増大すると見込んで、貯蔵を増やす計画だ。
だが、短期的には欧州向け供給分が貯蔵に回るとすれば、3カ月から4カ月で貯蔵能力に達し、一部のガス生産が停止してもおかしくないとみられている。
(Nina Chestney記者)
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