最新記事

韓国政治

20代「男vs女」が韓国大統領選の「法則破り」を生んだ

2022年3月14日(月)11時05分
ミッチ・シン
国民の力党の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長

保守系野党の尹は1ポイントに満たない僅差で勝利した LEE JIN-MANーPOOLーREUTERS

<保守系野党の尹錫悦(ユン・ソギョル)が与党候補に超僅差の勝利。現大統領の文在寅はレームダック化していなかったが、保革交代となった。その勝因は何だったのか>

3月9日に行われた韓国大統領選で、薄氷の勝利を収めたのは、保守系最大野党・国民の力党の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長だった。

得票率は、事実上の一騎打ちとなった与党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)の47.83%に対して尹が48.56%で、その差はわずか0.73ポイント。1987年の民主化以降の大統領選で、最も僅差での勝利となった。

大統領直接選挙制導入以降、韓国では保守系と革新系の政権が2期約10年ごとに交代してきたが、今回の尹の勝利でその法則も破れた。

文在寅(ムン・ジェイン)現大統領の支持率は最近でも45%前後で推移しており、過去の大統領の任期末と比較するとかなり高い。その意味で、文はレームダック状態にならなかった韓国初の大統領と言えそうだ。

とはいえ、野党の尹の勝利は、文の過去5年間の内政における失敗を反映している。

過去の大統領選に比べ、今回は20代有権者の戦いという意味合いが強かった。出口調査によれば、20代の支持は男女でくっきり分かれている。20代男性の58.7%は尹に、同女性の58.0%は李に投票した。

昨年6月の国民の力党代表選で、反フェミニズムの旗手である李俊鍚(イ・ジュンソク)が党首に就いてからというもの、韓国の若者たちはソーシャルメディア上で男女差別問題について火花を散らしてきた。

女性活躍の政策を「逆差別だ」と非難する若手男性を擁護すべく、李俊鍚は尹に女性家族省の廃止を公約させた。これが20代男女の大きな分断を生むことになった。

大統領選後、国民の力党の幹部数人が、選挙戦で男女間の分断を招いたことを謝罪した。だが尹は、自身が世論を二分させたことを否定。ここ数年議論の的だった女性家族省を公約どおり廃止するとみられている。

ある世論調査によれば、過半数の国民が同省の廃止を求めており、政府の男女平等政策に不満を抱いているという。

文政権がスタートした2017年以来、首都ソウル周辺の不動産価格が異常な高騰を続けていることも、大統領選の結果を左右した。

文の数々の対策にもかかわらず、ソウルの住宅価格は2倍近くにまで上昇。これにより、2017年選挙で文に投票した有権者のうち4分の1が今回は尹支持に回ったとみられている。

尹はソウルでは李に5ポイント差をつけており、人口の集中するソウル圏の不満を吸い上げたことが、尹の勝利につながった。

結果として今回の大統領選で、韓国が性別、世代、居住地、イデオロギーで分断されていることが露呈した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米旅客機空中衝突事故、生存者なしか トランプ氏は前

ビジネス

米GDP、24年第4四半期速報値は+2.3%に減速

ワールド

グーグルの「アメリカ湾」表記変更は間違い、メキシコ

ワールド

ハマスが人質解放、イスラエル人3人とタイ人5人 引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
  • 4
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 5
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 6
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 9
    世界一豊かなはずなのに国民は絶望だらけ、コンゴ民…
  • 10
    トランプ支持者の「優しさ」に触れて...ワシントンで…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 8
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 9
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中