最新記事

ヒトゲノム

人類のすべての祖先をたどる単一の巨大な系図を構築することに成功

2022年3月2日(水)17時30分
松岡由希子

それぞれの線は、祖先と子孫の関係を表し、線の幅は、関係が示された回数を表している。 image:Wohns et al / Science

<英オックスフォード大学の研究チームは、人類のすべての祖先をたどる単一の巨大な系図を構築することに成功した......>

2000年6月にヒトゲノムの解析がほぼ完了して以降、ヒトの遺伝子研究は目覚ましく進化し、先史時代の人々を含め、多くのヒトゲノムデータが生成されてきた。これらのヒトゲノムデータをもとに、人類の遺伝的多様性の起源をさかのぼって世界中の人々がどのようにつながりあっているのかを示す「全人類の系図」を生成できるのではないかと期待されている。

しかし、データフォーマットや分析方法が一様でなく、サンプルにも微妙な違いがあることから、大量のヒトゲノムを統一して分析することは容易ではない。

人類のすべての祖先をたどる単一の巨大な系図を構築することに成功

英オックスフォード大学ビッグデータインスティテュート(BDI)らの研究チームは、複数のデータソースからデータを簡単に統合でき、大量のゲノム配列にも対応するよう拡張可能な新たな手法を開発し、人類のすべての祖先をたどる単一の巨大な系図を構築することに成功した。その研究成果は、2022年2月25日、学術雑誌「サイエンス」で発表されている。

ヒトの祖先の推定地理的位置を過去にさかのぼって示している。ドットは、新しい遺伝的変異が最初に発生した予測される祖先を示す。既知のサンプルからの位置データを使用して、これらの予測された共通の祖先がどこに住んでいたかを推定している。Wohns et al / Science


研究チームは、この手法を用いて、8つのデータベースから現代人と古代人のヒトゲノムデータを統合した。ここには215の人類集団から計3609個のゲノム配列がまとめられ、うち古代人のヒトゲノムには、ネアンデルタール人のヒトゲノム3つ、約40万年前から約4万年前までシベリアや東アジアで居住していたとされるデニソワ人のヒトゲノム1つ、約4600年前にシベリアで居住していた家族4人のヒトゲノムが含まれている。

遺伝子変異のパターンを明らかにするべく、進化系統樹のどこに共通の祖先が存在するのかをアルゴリズムで予測した結果、約2700万人の祖先がネットワーク化され、2億3100万個の祖先系統がゲノムをさかのぼってつながっていた。

出アフリカやオセアニアへの移入など、人類史が正しく再現されていた

研究論文の筆頭著者で米ブロード研究所のアンソニー・ワイルダー・ウォンズ博士研究員は研究成果の意義について「基本的には、祖先のゲノムを再構築し、これを用いて一連の進化系統樹を構築した。これらの祖先がいつどこに居住していたのか、推測できる」と解説する。

研究チームは、サンプルのヒトゲノムに位置情報を付加し、共通する先祖がどこに居住していたのかを推定した。その結果、出アフリカやオセアニアへの移入など、人類史の特徴的な事象が正しく再現されていた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中