最新記事

ドーピング

「祖父の薬で陽性反応」 ワリエワ側の主張はありえない

Kamila Valieva's Grandpa's Meds Defense 'Highly Unlikely': Doping Expert

2022年2月16日(水)16時28分
ジョン・ジャクソン
ワリエワ

孤独な15歳。フィギュア女子SPの演技の後、泣き出したワリエワ(2月15日) Evgenia Novozhenina-REUTERS

ドーピング違反が発覚したフィギュアスケート選手カミラ・ワリエワ選手(ロシア五輪委員会代表)の出場継続の是非をめぐるスポーツ仲裁裁判所(CAS)の聴聞会で、禁止薬物はワリエワの祖父の心臓病治療薬だったとワリエワ側の弁護士は主張した。だがドーピング問題の第一人者は、禁止成分がワリエワの体内に入った経緯についての弁護士の説明を「まずありえない」と疑問視している。

ワリエワ選手側は2月初め、ロシア反ドーピング機関(RUSDA)に対して、陽性反応が出た理由を説明した。その内容を国際オリンピック委員会(IOC)は把握しているかと記者が質問したところ、IOCのデニス・オズワルド委員は「ワリエワの主張は、彼女の祖父が服用している薬で汚染されたというものだった」と答えた。

ワリエワのドーピング検査は昨年12月に行われたが、禁止薬物の検出が明らかになったのは北京五輪開幕後のことだった。オリンピック委員会は2月14日、北京冬季オリンピックでのワリエワの競技継続は許可するが、ドーピング疑惑が解決されるまで、ワリエワが獲得する可能性のあるメダルは保留になるという決定を発表した。

信じがたい説明

ロシアの反政府系サイト「ドシエル・センター」は、聴聞会におけるワリエワ側の証言の録音を入手したと報じた。それによると、ワリエワの弁護士アンナ・コズメンコは、検出された禁止薬物で心臓病の治療薬でもあるトリメタジジンがワリエワの体内に入ったシナリオを提示してみせた。

コズメンコはこう語った。「例えば、祖父が何かを飲んだときにコップに唾液が入り、そのあとで、ワリエワがこのコップをなんらかの形で使ったのかもしれない」。

「トリメタジジンは錠剤か、カプセルに入っている」と、禁止物質管理グループ(BSCG)のオリバー・カトリン代表は本誌に語った。「だから、ワリエワの祖父が錠剤を砕いて水の中に入れたというのでもない限り、そんな説明は意味不明だ」

カトリンは、スポーツにおける薬物検査分野の第一人者であり、約20年前に国際的なアンチドーピングの第三者認証・検査機関BSCGを共同設立した。

「カプセルや錠剤なら、手に取ってそのまま服用するはずだ。水の入ったコップに入れることはない。」と、カトリンは言う。「コップの水に溶かして飲んだ場合は、他人の体内に入ることはあるが、錠剤やカプセルなら、コップに入れたりせずに服用するのが普通だから、そのようなことが起きることは考えられない」

さらに「これが粉末の薬で、コップの水に溶かして服用していたのであれば、そのような説明も可能かもしれないが、カプセルや錠剤の場合は、ちょっと筋が通らない」と続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米下院、貧困や気候問題の支出削減法案 民主党反対 

ワールド

米FRB議長がコロナ感染、自宅から仕事継続

ビジネス

グローバル株ファンドに資金流入、米利下げ期待受け=

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中