モスクワ便り──ウクライナに関するプーチンの本音
(3)独仏の本音は、「ずいぶんウクライナ問題では米国にかき回された。そろそろ本件の主導権を米国から欧州側に戻してもらおう」というところだと思っています。
(4)ノルド・ストリーム2に関してですが、ロシアとしては、現在、このパイプラインが稼働しないことによって、ガスの高値が維持できていて経済的デメリットはまだ大きく出ていない。それどころか、米国もこの1ヶ月はアジア向けより欧州向けの方が市場価格が高いので、欧州にLNG(液化天然ガス)を9割ほど向けています。結果、欧州のユーザーや消費者は、ウクライナ問題のために、高額の出費を強いられているという状態です。
(5)最後になりますが、ロシアとて一応法治国家ではあるので、今、ドンバス(ウクライナ東南部にある地方)に最新鋭兵器を供与するかどうかの議案が議会で審議されるほどで、ウクライナへの侵攻を大統領が決断できるのは何らかの攻撃、安全保障上の重大な危機が生まれた時ということになります。あの国際法違反が濃厚なクリミア侵攻の際も、ウクライナに軍を動かすに当たって、議会の承認を取り付けて行動しています。ロシアにとって、今現在は武力侵攻せねばならない危機ではなく、ふらふら状態のゼレンスキー政権などと戦争してもメリットはほとんど見当たりません。英米が騒いでくれている状態が、ロシアにとっては国際政治上、かつ、エネルギー価格の暴騰でメリットもよりあるように見えます。
*注【ミンスク合意】:2014年9月5日にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドバンス地域における戦闘の停止について合意した「ミンスク議定書」と、2015年2月11日に欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督の下、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツが署名した、東部ウクライナにおける紛争(ドンバス戦争)の停戦を意図した「ミンスク2」協定を指す。
取材の結果は概ね以上だ。
「モスクワの友人」は、米国が創り出した「煽り情報」に日本の大手メディアやいわゆる「専門家」までがそのまま乗っかり、ウクライナとロシアの真相を突き止めようとしないのは残念でならないと嘆いていた。アフガニスタンで失敗した「狼少年」の正体を見極めないのは世界の消耗であり損失であるとも指摘する。
日本のロシア問題研究者の、高い知性に基づく真剣勝負的健闘を期待したい。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。