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北朝鮮ミサイル実験は「五輪明け」に再開か...これほど「連射」が必要な理由とは

Kim to Confront the U.S. This Year

2022年2月11日(金)16時04分
李相洙(スウェーデン安全保障・開発政策研究所副所長)
北朝鮮ミサイル実験

北朝鮮は1月5日の極超音速ミサイルを皮切りに1カ月で7回の発射実験を行った KCNAーREUTERS

<金正恩流「最大限の圧力」戦略で制裁解除を狙う。日中韓を巻き込んだ軍拡レースの激化を防ぐにはどうすればよいのか?>

北朝鮮はバイデン政権が呼び掛けた外交協議を突っぱねて以来、対米戦略の練り直しに取り組んできたようだ。

昨年末に外交政策の検証結果を手短にまとめた報告書が発表されただけで、北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)総書記の恒例の新年の演説は見送られたが、これだけは言える。北朝鮮はアメリカと国際社会の関心をフルに引き付けるために、今後何カ月かより高度なミサイルの発射実験と軍事バレードを繰り返すだろう。

この動きは北朝鮮流「最大限の圧力」戦略の一環で、その狙いは米朝協議再開の前提としてバイデン政権に北朝鮮に対する「敵視政策」を撤回させることだ。

昨年12月30日に執政10年を迎えたにもかかわらず、金は今年、新年の演説を行わなかった。北朝鮮の国営メディアは昨年12月27~31日に行われた朝鮮労働党第8期中央委員会総会の決定を伝えたが、そこにはなぜか基本的な外交政策や戦略は入っていない。

総会では「原則的な問題」と急速に変化する国際情勢に対応する戦略的方向性が話し合われた、と伝えられただけだ。

外交政策の方向性が打ち出されなかったのは「戦略的柔軟性」の確保のため、つまり外部環境の変化に臨機応変に対処する余地を残しておくためではないかと、多くの専門家はみている。2月に行われる北京冬季五輪、3月に実施される韓国の大統領選など、今の東アジアには多くの不確定要因がある。ウクライナと台湾で軍事衝突が起きる可能性もゼロとは言えない。

五輪開催中だけはおとなしく

もっとも、こうした成り行きが北朝鮮の外交政策に及ぼす影響は限定的だ。五輪開催中だけおとなしくしていれば、北朝鮮が引き続きミサイル発射実験を繰り返しても、中国は見て見ぬふりをするだろう。さらに誰が韓国の次期大統領になろうと、米政府の許可なしに韓国の北に対する姿勢が根本的に変わる心配はない。

北朝鮮は既に外部環境の今後の変化の影響を予測し、米韓に対しては「正面突破」もしくは「力には力で」戦略を取る構えを固めているとも考えられる。そのために表に出す報告書では外交戦略には触れずに、ひそかに軍事的な行動計画を準備しているのではないか。

北朝鮮はアメリカの制裁と今後の米韓合同軍事演習に報いるべく、また韓国の大統領選で保守系最大野党の候補である尹錫悦(ユン・ソギョル)が勝利した場合に備えて、一連のミサイル発射実験を実施し、ことによると核実験も行う準備を進めているとみてよさそうだ。

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