習近平はなぜ、中国が40年かけて築いた「成長の土壌」と「富」を捨てるのか?
Heading Toward Stagnation
北京五輪の開会式に出席した習近平 Pool via REUTERS/Anthony Wallace
<北京五輪が華やかに開幕したが、その一方で中国共産党は「共同富裕」を実現させるため40年来の成功をドブに捨てようとしている>
2008年の夏季五輪の開催都市・北京で、2月4日に冬季五輪が始まった。雪不足も何のその、中国共産党は55発のロケット弾で人工雪を降らせるなど、文字どおり山をも動かす勢いだ。
しかし習近平(シー・チンピン)国家主席は今、人工雪を降らせるよりもはるかに困難な課題に直面している。安定成長を維持しつつ、所得格差を減らす「共同富裕(みんなで豊かになろう)」の実現だ。
前回、北京の会場に聖火がともったとき、当時の国家副主席だった習は五輪の最終準備を指揮していた。その後に習の指導下でじわじわ進んだ政治と経済の変化のせいで、今や鄧小平の改革開放の成功を支え、高度成長の原動力となってきた重要な要素が損なわれる事態になっている。
習は漢民族の再興を意味する「中国の夢」の実現を誓い、実利主義と成長ではなく、国家安全保障とイデオロギーを重視する姿勢を取った。さらに昨年、「共同富裕」のスローガンを提唱。所得格差を是正し、中間層を増やし、中小企業の技術開発を支援する、50年代の毛沢東主義のアップデート版とも言うべき構想を経済政策の中核に据えた。
所得と資産の格差是正を目指すのは結構なことだが、習のやり方で格差を解消しようとすれば、過去40年間中国の開発モデルを支えてきた最も重要な2つのファクターを損なう危険性がある。民間活力と、「失敗を恐れずやってみる」大胆な実験精神だ。
大企業「いじめ」という愚策
アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)をはじめ、中国の起業家たちが以前から警戒していたように、習は国家の利益に資する限り民間部門の存在を容認するが、大企業でもその条件に不適合と見なされる可能性が常にある。実際、習はこの1年、共産党を脅かすとみて、大企業への締め付けを強化してきた。
共同富裕の中核には、都市部の雇用の80%を担う中小企業を支援し、勤勉とイノベーションを通じて豊かさを実現する構想が据えられている。習は究極的には、ドイツ経済を支える「ミッテルシュタント(中小企業)」のように、イノベーションに注力し、高付加価値製品を製造し、高賃金の雇用を創出する中小企業群を育成したいのかもしれない。しかし質素倹約と富の再配分を説きつつ、それを実現するのは無理な注文だ。