最新記事

ワクチン

特許権が放棄された新型コロナワクチン「CORBEVAX」が、世界を変える

2022年2月1日(火)16時53分
松岡由希子

「CORBEVAX」は世界の人々が広く新型コロナウイルスワクチンの接種機会を得られるよう、その特許権が放棄された YouTube-Global News

<世界のワクチン格差はますます深刻な課題となってきている。特許権が放棄されている「CORBEVAX」が、世界の新型コロナをめぐる状況を大きく変化させるかもしれない......>

世界で新型コロナウイルスワクチンを1回以上接種した人は48億人を超え、世界人口の約62.5%を占めている。しかし、接種率が8割近くにのぼる高中所得国とわずか1割にとどまっている低所得国とのワクチン格差はますます深刻な課題となってきた。

組換えタンパク質をベースとした従来技術を使った「CORBEVAX」

米ベイラー医科大学付属テキサス小児病院の研究チームは、組換えタンパク質をベースとした従来技術を用い、「世界の新型コロナウイルスワクチン」を標榜する新たなタンパク質サブユニットワクチン「CORBEVAX」を開発した。

「CORBEVAX」は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の無害な部分を使って免疫系を刺激し、新型コロナウイルスに遭遇したときに備える仕組みだ。スパイクタンパク質の「設計図」を与えるファイザーやモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに対して、「CORBEVAX」はスパイクタンパク質を体内に届ける。

同様の技術は1980年代にB型肝炎ワクチンで用いられ、米バイオ医薬品企業ノババックスの新型コロナウイルスワクチンでも採用されている。

従来株の発症を90%以上予防

インドで18~80歳の3000人以上を対象に実施した第3相試験ではその安全性と忍容性、免疫原性が確認された。従来株の発症を90%以上予防し、デルタ株の発症を80%以上予防する。また、2回接種から6カ月経過後も血清中和抗体価の幾何平均値(GMT)の減少は30%未満で、免疫応答を高く持続していた。なお、オミクロン株への効果については調査中だ。

研究チームは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行時に、SARSウイルスのスパイクタンパク質の一部の遺伝情報を酵母に挿入してスパイクタンパク質を大量に産生させるSARSワクチンを開発していた。SARSの流行が短期間で終息したため、このワクチンは使用されなかったが、このワクチンをベースとし、スパイクタンパク質を新型コロナウイルスに更新して「CORBEVAX」が開発された。

特許権が放棄された「CORBEVAX」

「CORBEVAX」は世界の人々が広く新型コロナウイルスワクチンの接種機会を得られるよう、その特許権が放棄されている。インドでは、2021年12月28日に医薬品管理局(DCGI)が「CORBEVAX」の緊急使用を許可し、インドの製薬会社バイオロジカルEが2022年2月以降、毎月1億回分を生産する計画だ。3億回分の供給をインド政府と約束しているほか、さらに10億回分以上を国外にも供給していく。

「CORBEVAX」は、十分に確立された組換えDNA技術を用いて容易に比較的低コストで生産できるため規模を拡大しやすいという点で、mRNAワクチンよりも優位性がある。「CORBEVAX」の生産に適した施設はすでにあり、mRNAワクチンのように超低温で保管する必要がなく、通常の冷蔵庫で保存できるため輸送や管理がしやすいのも利点だ。大量に生産し、世界各国へより速く簡単に供給できることから、ワクチン格差を解消する手段のひとつとして期待されている。

COVID-19: New CORBEVAX vaccine could help immunize low-income countries


Dr Peter Hotez, co-developer of Covid vaccine Corbevax on how it works, why they waived the patents

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中