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ハイテク北京冬季五輪と中国の民間企業ハイテク産業競争力

2022年1月25日(火)07時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

この特許数に関しては、自国に申請した特許数ではなく、ファミリーパテントと言って、二極あるいは三極特許を見なければならない。「三極特許」とは、欧州特許庁(EPO)、日本特許庁(JPO)および米国特許商標庁(USPTO)の三極特許庁すべてへ登録された特許グループ(Triadic patent families)のことを指す。

これに関しては以下のようになっている。

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上記同報告書より

すなわち日本が世界1位なのだ。

アメリカは自国で申請して特許を得れば、それが世界標準となるので、ファミリーパテントを得る必要がないからだろう。三極では日本より少ない。

日本が1位であるのに、ハイテク産業競争力に関して日本は残念ながら「失われた30年」という言葉で表されるように、国際社会において、すっかり沈んでしまっているのは、いったいどういうことなのだろうか?

その回答は報告書にも書いてなく、原因を求めて考察を試みた。

中国のハイテク製造に対する日本の技術提供

その結果、中国はハイエンドのハイテク製品を生産するのに強く、日本は中国がハイテク製品を完成させるための「パーツ」に関する技術提供をしているという構図が見えてきた。

たとえば世界で最も有名なドローンメーカーといっても過言ではない中国のDJIが開発している産業用ドローンのパーツの半分ほどは日本製だ。

またファーウェイのスマホの場合も、さまざまな製造プロセスで日本の技術なしには最終的な「製品」としては製造できない。たとえば2019年9月に発売したファーウェイMate 30 Pro 5Gでは数で数えて88.4%のパーツが日本製だった。コスト換算すると31.6%が日本製となる。

日本の最大貿易国は周知のように中国だが、報告書では「日本の技術の輸出先」は、アメリカを除けば中国が最大だというデータが示されている。

中国は、かつては「組み立て工場」と言われたように、さまざまな部品を日本などから輸入しては最終的なハイテク製品を生産する技術に今でも長けており、また販売に関しても強い。

さらに特許の内、民間企業が圧倒的多数を占めており、中国では「民間企業こそが中国ハイテク産業の主力軍だ」と言われている。

2017年と、やや古いが、下に示すのは『中国科技年鑑』(2018年)が公表した「中国企業別有効特許」の「民間企業と外気企業および国有企業」の比率である。有効特許とは許可が下りた特許のことで、中国では申請数が多いので、明確に区別する必要が生じる。

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『中国科技年鑑』(2018)より

注意すべきは、これら民間企業が「軍民融合」によって中国の軍隊に寄与していることだ。

日本は「政冷経熱」などとして、中国への経済依存度に対する自己弁護などすべきではない。立派に中国の軍事に役立っていることを肝に銘じるべきだろう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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