最新記事

アジア

カザフスタンで非常事態宣言 抗議デモ鎮静に旧ソ連諸国が支援部隊派遣へ

2022年1月6日(木)09時39分
カザフスタン最大都市アルマトイで抗議デモが行われ、警察車両が燃え上がる

カザフスタンのトカエフ大統領は内閣総辞職を承認した。写真は燃料価格引き上げに対する抗議デモが行われる中、警察車両が燃え上がる様子。アルマトイで同日撮影(2022年 ロイター/Pavel Mikheyev)

中央アジアのカザフスタンで燃料価格引き上げに対する抗議デモの一部が暴徒化する中、トカエフ大統領は6日、鎮静に向けてロシアなど旧ソ連諸国でつくる集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を要請した。

これを受け、CSTO加盟国であるアルメニアのパシニャン首相は、カザフに平和維持部隊を一定期間派遣すると明らかにした。部隊の規模は不明。

ロシアの国営通信社スプートニクによると、カザフ内務省は5日、抗議デモによって4─5日に警官ら8人が死亡したと明らかにした。ロシアの複数の通信社はその後、カザフメディアの報道として、最大都市アルマトイの空港での「対テロ作戦」で兵士2人が死亡したと伝えた。

抗議デモは燃料価格引き上げが発端となって発生したものの、参加者の間ではナザルバエフ前大統領への批判の声が広がっている。ナザルバエフ氏は2019年に後任にトカエフ氏を任命し一線から退いたが、なお政治的な実権を握っているほか、同氏の親族が経済の大部分を掌握している。

こうした中、トカエフ大統領は5日、ナザルバエフ前大統領を安全保障会議議長から解任した。これに先立ち、内閣総辞職を承認し、代行閣僚に燃料価格引き上げの取り消しを命じたが、騒乱は収まらず、首都ヌルスルタン(旧称アスタナ)のほか、アルマトイと西部マンギスタウ州で非常事態を宣言した。ロシア通信(RIA)によるとその後、非常事態宣言は全土に拡大された。

事情に詳しい関係筋によると、デモ隊はアルマトイの空港を占拠し、フライトはキャンセルされた。

インタファクス通信は当局者の話として、その後、デモ隊は空港から排除されたと伝えた。ロイターはこの報道について確認できていない。

トカエフ大統領は6日未明のテレビ演説で、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンで構成するCSTOに支援を要請したと説明。外国で訓練を受けた「テロリスト」が建物やインフラを襲い、アルマトイの空港で航空機5機を占拠したと述べた。

カザフスタンはナザルバエフ氏の長期政権の下で政治的に安定していたことで、原油や金属などの産業に外国からの多額の投資が流入。今回の騒動を受けカザフスタンのドル建て債の価格が急落するなどの影響が出ている。

政治アナリストは、他の旧ソ連構成国と同様に、自由を否定されたことに対する若者の不満が見せかけ上の安定で覆い隠されていたと指摘。ブルーベイ・アセット・マネジメントの新興市場ストラテジスト、ティム・アッシュ氏は、「民主主義の欠如に対する根源的な不満が根底にある」との見方を示した。

ロシア大統領府は、カザフスタンは自ら内政問題を迅速に解決できるとの見方を示し、他国の干渉をけん制。米ホワイトハウスのサキ報道官は情勢を注視しているとし、自制を呼び掛けた。その上で、米国が混乱を扇動したとのロシアの主張は誤っていると述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、ハーバード大への助成・契約90億ド

ワールド

アルゼンチン貧困率、24年下半期は38.1%に急低

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 米関税の影響懸念

ワールド

イスラエル首相、「カタールゲート」巡る側近の汚職疑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中