最新記事
AI

AIが97%の精度で起訴する「AI検察官」が中国で開発される

2022年1月7日(金)18時30分
松岡由希子

「間違いが起こったとき、いったい誰が責任を負うか」という指摘も PhonlamaiPhoto-iStock

<中国上海市浦東新区人民検察院によって「AI検察官」が開発され、試験的に導入された>

中国の研究者チームは「人工知能(AI)を用いて人々を訴追するシステムの開発に世界で初めて成功した」と発表した。香港の日刊英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が2021年12月26日に報じた。

犯罪が疑われる事件の記述をもとに97%超の精度で起訴できる

この「AI検察官」は、中国で最も広範で多忙な地方検察庁である上海市浦東新区人民検察院によって開発され、試験的に導入された。犯罪が疑われる事件の記述をもとに97%超の精度で起訴できる。

研究者チームは「意思決定プロセスで、ある程度、検察官に置き換えられる」と評価。「AI検察官」の導入によって、検察官の業務負荷が軽減され、検察官がより難易度の高いタスクに集中しやすくなると期待している。

中国では、法執行機関においてすでにAI技術が活用されている。2016年には、証拠評価や逮捕の要件、容疑者が公共の危険を生じさせるおそれがあるかの判断を支援するAIツール「システム206」が導入された。

2017年8月には、オンライン購買、オンラインサービス、インターネット上の著作権侵害、ドメイン名紛争などに関する民事・行政案件を一審として審理する「杭州インターネット裁判所」が設立された。起訴・応訴・仲裁・審理・判決といった裁判手続がインターネットで行われ、裁判文書はAIを用いて作成される。裁判官は一連の裁判手続をモニタリングし、AIが作成した裁判文書を修正して、判決を下す。

1万7000件超の刑事事件を用いて学習させた

しかしこれまで、AIの意思決定プロセスへの関与は限定的であった。このような意思決定には、複雑な人間の言葉を識別し、コンピュータが理解できる形式に翻訳するマシンが必要だからだ。テキストや音声、画像を分析する「自然言語処理(NLP)」と呼ばれるプログラムや検察官がアクセスできないスーパーコンピュータが必要となる。

そこで、研究者チームは、標準的なデスクトップコンピュータで動作する「AI検察官」を開発。2015年から2020年までの1万7000件超の刑事事件を用いて学習させ、人間が作成した事件の記述から1000の特性をもとに起訴できるようにした。

現時点で、上海で犯罪件数の多いクレジットカードの不正利用、賭博、危険運転、窃盗、詐欺、傷害、公務執行妨害のほか、日本語で「騒乱挑発罪」とも訳される「寻衅滋事罪」を起訴する。

「AI検察官」の導入に対し、懸念も示されている。広州市のある検察官は「技術的見地に立てば、97%の精度は高いのかもしれないが、判断を誤る可能性は常にある。間違いが起こったとき、いったい誰が責任を負うのだろうか」と指摘。「AIはミスを見つけるのに役立つかもしれないが、意思決定において人間の代わりにはなりえない」と主張している。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中