最新記事

ワクチン

個人の「健康上の事情」で選択する権利を、ワクチンパスポートで踏みにじるな

TWO-TIERED SOCIETIES ARE NOT THE ANSWER

2021年11月2日(火)16時47分
ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党〔UKIP〕元党首)
英ジョンソン首相

コロナワクチンの効果に疑問を呈したジョンソンだが MATT DUNHAMーPOOLーREUTERS

<ワクチンの効果も明確でない中で、接種者・非接種者の「二重」社会をつくり出そうとする政治家たちの過ち>

先日、イギリスのジョンソン首相はカメラに向かってこう語った。新型コロナワクチンは「感染することからも、他人を感染させることからも守ってくれない」と。彼は(おそらく意識せずに)、ワクチンの接種証明、いわゆるワクチンパスポートの前提となる核心部分を一気に論破してみせた。

それにもかかわらず、欧米諸国の指導者はワクチンを接種した人としていない人の分離政策に躍起になり、「二重」社会の構築に励んでいる。

最新の事例はニュージーランドのアーダーン首相だ。かつて世界で2番目に新型コロナに「精通した人物」として喝采を浴びた彼女の発言は、最も憎むべきたぐいの一例だ。ワクチンの接種者と非接種者を分ける二重社会を目指しているのかと問われた彼女は「そう。そのとおりよ」と答え、得意げににんまりして見せた。あたかも自国民の権利を制限することに、躊躇すらしないことを示唆するように。

権力をおもちゃのように使うのはニュージーランドだけではない。オーストリアのシャーレンベルグ新首相は、ワクチン接種を終えていない人を標的にした新たなロックダウン(都市封鎖)について議論しているが、こうした考えは手に負えない分断を生むことになる。

ただし、世間に公表されているデータは、必ずしもワクチン非接種者が問題だと示してはいない。だがそうした議論すら許されない。ジョンソンの発言が信じられるなら、ワクチン接種者は感染することからも、させることからも守られない。にもかかわらず密な生活を許されるのは接種者だけだ。

いずれブースター接種者だけの特権に

そうした社会的作用は増える一方で、英スコットランドやウェールズ、またフランスでは2度接種を終えた人々に特権を与えている。長期的にはブースター接種者にしか与えられない権利になるだろう。今やフランス全土で外食するためにはワクチンパスポートが必要で、スコットランドでもナイトクラブでは必須。スポーツ観戦でも求めていく方向になりそうだ。

神から与えられた権利を守るという点で西欧諸国の中ではユニークな立ち位置にあるアメリカは、政治的・医学的に都合のいい立場にある人だけでなく、全ての国民の自由を守ることの重要性を考えるべきだ。私自身は2度の接種を終えているが、57歳で長らく愛煙者のため(接種は)理にかなっていると思う。だが、国家を挙げたいじめは忌まわしい。複数の階層に分かれた社会は過去の世紀の暗黒時代を呼び起こす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中