改革は遅く官僚主義的、それでもドイツの民主主義に学ぶべきこと
German Lessons
■限定的な警察国家
1月6日に首都ワシントンで起きた暴動で明らかになったように、アメリカには軍と警察関係者に不満分子がいて、一部は武装している。これはワイマール共和国が、殺人も辞さない民兵組織「ドイツ義勇軍(フライコーア)」や、第1次大戦後に社会から疎外された退役軍人を抱えていた状況と、恐ろしいほど似ている。
ドイツにも軍と警察の内部や周辺に過激な勢力がいるが、極右思想を信奉する者が多いと疑われる軍特殊部隊の一部中隊を解体するなど、対策を講じている。
こんにちのドイツは国防を軽視していると批判されることも多いが、大規模な軍隊や国家安全保障の実行組織、軍国主義の警察を持たないことが、民主主義にとってプラスであることを証明している。ただし、10年前に徴兵制が廃止されたことにより、志願者が集まって社会から孤立した過激な軍隊になるという危険がくすぶっている。
■社会的市場経済
ドイツでも社会と経済の格差は拡大しているが、アメリカほど激しくはない。ドイツの社会福祉制度は19世紀に基本の枠組みがつくられ、中間層を含む全ての人が恩恵を受けている。
さらに、ドイツは社会の連帯感が強い。彼らの「社会的市場経済」は、保守主義と社会主義の両方の伝統を具現化している。
ドイツには、社会の平等と結束を維持する上で国が重要な役割を担うという、ポジティブ・フリーダム(積極的自由)の考え方がある。いわゆるジャングル資本主義や社会経済的な利害の衝突から個人を守るために、国は制度や政策の強固な社会ネットワークを保証しなければならない。
その結果、ドイツ社会では富の分配がアメリカよりはるかに平等に行われている。17年のジニ係数(国民所得分配係数。0は完全な平等~1は完全な不平等)はアメリカの0.399に対し、ドイツは0.29。貧困格差はアメリカの世界39位に対し、ドイツは144位だった。
■過去と向き合う
アメリカとドイツは人種差別の恐ろしい遺産を共有しているが、ドイツ人はナチスの過去に果敢に立ち向かってきた。その最も顕著な象徴が、首都ベルリンの中心部に設置されたホロコースト記念碑だ。
アメリカは人種差別の歴史と遺産にようやく向き合い始めたばかりだが、一方で、人種問題は政治的分裂を生む争点の1つにすぎない。