最新記事

ドイツ

改革は遅く官僚主義的、それでもドイツの民主主義に学ぶべきこと

German Lessons

2021年10月27日(水)20時37分
スティーブン・サボー(ジョージタウン大学非常勤教授)

211102P33_DIT_03.jpg

今ではアメリカで独裁的な政治を求める動きが見られる(2021年1月の米議会襲撃) SHANNON STAPLETON-REUTERS

■限定的な警察国家

1月6日に首都ワシントンで起きた暴動で明らかになったように、アメリカには軍と警察関係者に不満分子がいて、一部は武装している。これはワイマール共和国が、殺人も辞さない民兵組織「ドイツ義勇軍(フライコーア)」や、第1次大戦後に社会から疎外された退役軍人を抱えていた状況と、恐ろしいほど似ている。

ドイツにも軍と警察の内部や周辺に過激な勢力がいるが、極右思想を信奉する者が多いと疑われる軍特殊部隊の一部中隊を解体するなど、対策を講じている。

こんにちのドイツは国防を軽視していると批判されることも多いが、大規模な軍隊や国家安全保障の実行組織、軍国主義の警察を持たないことが、民主主義にとってプラスであることを証明している。ただし、10年前に徴兵制が廃止されたことにより、志願者が集まって社会から孤立した過激な軍隊になるという危険がくすぶっている。

■社会的市場経済

ドイツでも社会と経済の格差は拡大しているが、アメリカほど激しくはない。ドイツの社会福祉制度は19世紀に基本の枠組みがつくられ、中間層を含む全ての人が恩恵を受けている。

さらに、ドイツは社会の連帯感が強い。彼らの「社会的市場経済」は、保守主義と社会主義の両方の伝統を具現化している。

ドイツには、社会の平等と結束を維持する上で国が重要な役割を担うという、ポジティブ・フリーダム(積極的自由)の考え方がある。いわゆるジャングル資本主義や社会経済的な利害の衝突から個人を守るために、国は制度や政策の強固な社会ネットワークを保証しなければならない。

その結果、ドイツ社会では富の分配がアメリカよりはるかに平等に行われている。17年のジニ係数(国民所得分配係数。0は完全な平等~1は完全な不平等)はアメリカの0.399に対し、ドイツは0.29。貧困格差はアメリカの世界39位に対し、ドイツは144位だった。

■過去と向き合う

アメリカとドイツは人種差別の恐ろしい遺産を共有しているが、ドイツ人はナチスの過去に果敢に立ち向かってきた。その最も顕著な象徴が、首都ベルリンの中心部に設置されたホロコースト記念碑だ。

アメリカは人種差別の歴史と遺産にようやく向き合い始めたばかりだが、一方で、人種問題は政治的分裂を生む争点の1つにすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中