最新記事

中国社会

中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相

2021年10月9日(土)13時19分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国のアイドルと熱狂は創られる endopack-iStock.

中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。

「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?

「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。

日本の動漫(動画や漫画)が80年代に中国を席巻したように(参照:拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』、2008年)、中国はつぎつぎと日本のサブカルチャーを模倣していき、この「飯圏」も日本のAKB48などにヒントを得たという側面を持つ。

しかし中国はどんなことでも「えげつないほどに」ビジネス化していく国。

中国では特定の芸能人(タレント、アイドル)が所属する事務所(民営の企業)が十代前半の、まだ社会的判断力もつかないファンたちをネットで組織化して煽り、「荒稼ぎ」をするだけでなく、そのタレントの悪口を言ったり嫌ったりしている人が一人でもいると個人情報を暴いてネットで総攻撃を仕掛けて死に追いやるまで虐める行為が問題となっている。

どういうことか、一つの例を挙げてみよう。

たとえばXという人気の高いアイドルがいたとする。

そうすると、Xが何月何日何時のどこ発のフライトに乗るという情報を持っている人がネットに現れ、その情報の売り買いをネットでする。

同じフライトに乗ったり、あるいはチケットが買えない場合は、到着する飛行場で待ち受けるという「出待ち」をしたりする。

次は盗撮行為。この写真をまたネットで販売する。

もし憧れのタレントXの悪口を言う者がネットに現れたりすると、その人物のプライバシーを徹底的に暴いて、家族を含めたターゲットめがけて総攻撃を始める。ネットに実名や顔写真や住所はもとより、さまざまなプライバシーが全てさらされた本人は、いたたまれなくなって自殺する場合さえある。

プライバシーなど、たとえば警察に小銭を渡せば、喜んで秘密情報を「売ってくれる」警官など、いくらでもいるので細部にわたって入手できる。

これら一連の動きの背後にはタレントXが所属する事務所があって、別の事務所の人気タレントYと競わせ、ネットにおける「人気ランキング」で上位にランクされるように、金が動くという仕掛けがある。

十代前半の熱狂的ファンをあやつる闇ビジネス

今年8月12日付の中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は、<大量の時間を費やし、金でランキングを応援するのは何のため?>というタイトルで以下のような報道をしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

情報BOX:トランプ米大統領、3期目は可能か

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

アングル:大荒れだった1-3月の米国株、政策の不確

ワールド

マレーシアのペトロナス・ガスパイプラインで火災、3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中