最新記事

NFT

世界で最も価値のある絵画を悪名高い贋作作家がNFTで販売 NFTバブルの行方は?

2021年10月12日(火)18時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

レオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」 WIKIMEDIA COMMOMS

<ニセモノの名画のNFT、そして100%本物だと言い切れないその原作。それぞれ、価値の実態や保管に不安を抱え不完全さがあるものでもオルタナティブ投資の勢いは止まらない...>

悪名高いドイツの贋作画家ウォルフガング・ベルトラッチが、世界で最も価値のある絵画を元にしたNFTを販売している。ベルトラッチは、2011年に、14の有名な絵画を偽造した罪で有罪判決を受けたにも関わらず、レオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」(救世主)に由来する4,608点のオリジナル・デジタル作品を制作。膨大な利益が見込めるであろうことは想像に難くない。

ベルトラッチのウェブサイトでは、500年前の絵画「救世主」のオリジナルデジタルアート4,608点が販売されている。「TheGreats」と呼ばれるこのコレクションは、「サルヴァトールムンディ」の各バージョンに、ピカソ、ゴッホなどの画家を含む7つの芸術時代のスタイルが組み込まれているため、言うなれば「美術史におけるデジタルジャーニー」だ。

theeras-211012.jpg

ベルトラッチのNFT作品 PHOTO VIA THE ERAS

そもそも有名な芸術作品を鍛造するというベルトラッチのスタイルは、近年急拡大した非代替トークン(NFT)の世界で水を得た魚のごとく、ふさわしい場所を見つけ勢いづいている。NFTの特性として、これまでは富裕層に限られていた、時計、絵画、車、ジュエリーなどのオルタナティブ資産へのアクセスを一般に開き、投資の民主化に大きな変化をもたらすものとしてもてはやされているわけだが、なかでもNFTアートの高額取引は活況を呈している。

とはいえ、問題がないわけではない。

少し話はそれるが、本物の「サルバトール・ムンディ」の絵は、2017年のクリスティーズのオークションでサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に4億5,030万ドル(約510億円)で落札されたが、実は問題を抱えている。専門家らは、この「サルバトール・ムンディ」をダ・ヴィンチが本当に作品を描いたかどうか根本的な部分を証明するのに苦労しているのだ。要するに、恐らくダ・ヴィンチ本人の作品だろうが、確証はないのだ。

一方でNFTは、たとえ複製できないNFTアートのオリジナル版とされているものでも、物理的には存在しない。入手した人が手にするのはその作品にアクセスするためのURLひとつと、あまりに心許ない。おまけに盲点なのが、完全にオンチェーンに情報が格納されないということ。デジタルアートや動画のNFTデータは容量が大きくブロックチェーンに書き込むことは非現実的なため、にイーサリアム上でなくストレージに格納される。

デジタルの最先端と謳われるNFTが、実はjprgファイルのURLの移転に過ぎず、何らかのアクシデントでストレージへのアクセスが遮断されたら現物資産のデータを取り戻すことは難しいというのはあまり知られていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中