最新記事

アフガニスタン

タリバンがアフガニスタンを奪い返す勢い──バイデンは何を読み違えたのか

What Happens If the Taliban Takes Control of Afghanistan?

2021年8月13日(金)17時45分
ジャック・ダットン

米国防当局者は11日、ロイター通信に対して、米情報機関の分析を基に、カブールが30日以内にもタリバンに包囲され、90日以内に陥落するおそれがあるとの認識を示した。

こうしたなか、アフガニスタンから全ての米軍部隊を撤退させるというジョー・バイデン米大統領の決断に批判の声があがっているが、バイデンは10日、米軍の撤退について「後悔はない」と述べ、方針の見直しを否定した。アフガニスタン政府に対し、自分たちの国を守るために自分たちで戦うよう呼びかけた。

ワトキンスによれば、真の問題は、タリバンがいかにアフガニスタン政府を降伏させるかだという。カブールが意外に早く陥落する可能性はあるが、アシュラフ・ガニ大統領が戦わずしてカブールの支配権を放棄する可能性は低いとワトキンスは指摘する。

豪ディーキン大学の名誉准教授でアフガニスタンの専門家であるクロード・ラキシッツは、アフガニスタンの治安部隊に、ガニの政府のために命を懸けて戦う意思や意欲がないことが明らかになりつつあると語った。

「タリバンに追い風が吹いており、彼らがカブールを目指す道のりは、さほど困難なものではなくなるだろう」と彼は12日に本誌宛てのメールの中で述べた。「タリバン発祥の地であるカンダハルの大部分も、既にタリバンによって制圧されている。治安部隊は、これ以上抵抗しても無駄だという思いを強めるだろう」

連合軍の協力者たちに待ち受ける悪夢

ラキシッツは、タリバンが今後権力を掌握する可能性が高く、彼らは連立政府の樹立には関心がないだろうと言う。「タリバンは自分たちの勝利の匂いを嗅ぎ取っており、権力を共有する気などまったくない。彼らはガニを大統領の座から追い出したいと考えている。アメリカがガニを見捨てたことも知っている。バイデンも、決定を覆すつもりがないことをはっきりと示している」

タリバンが率いる政府はどのようなものになるか、という質問に対して、ラシキッツはこう答えた。「タリバンの勝利は何よりも、女性と子どもにとって悪いニュースとなるだろう。彼女たちが過去20年の間に苦労して手に入れた権利が、すべて無効になる。このことは、既にタリバンが制圧した複数の地域からの報告で分かっている。恐ろしいことになる」

またラシキッツは、タリバンがカブールに侵攻するまでには、政府や軍の高官たちはおそらく安全な場所に避難していると予想。だが後に残されたそれ以外の公務員や軍関係者は、手荒な扱いを受けるだろうと述べる。

「通訳や料理人、運転手など、連合軍に協力したことが分かっている者たちは、おそらく射殺されることになるだろう。既にこうしたことが起きているという複数の報告がある。ターゲットを定めた暗殺行為は、既に起きているのだ」

米軍撤退後のカブールに、地獄が迫っている。


ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中