最新記事

入管

入管が医療受けさせず女性死亡、遺族「上川法相が責任を取るべき」

2021年8月12日(木)19時30分
志葉玲(フリージャーナリスト)

ポールニマさんが指摘する「嘘」とは、今回の最終報告に記載された、今年2月15日に行なわれたウィシュマさんの尿検査のこと。検査結果は、ウィシュマさんが飢餓状態・脱水症状にあることを示していたのだ。この尿検査については、今年4月に法務省及び入管庁が発表した中間報告でその事実があったことすら一切触れられず、「内科的な異常はない」との記述ばかりが強調されていたのだ。

ワヨミさんとポールニマさんら遺族を支援する指宿昭一弁護士は「中間報告の時点で尿検査について把握していなかったはずがない」と指摘。「意図的に隠していたものだと思います。ワヨミさんも尿検査について、すぐに『これは中間報告に書かれていませんでしたよね?』と気が付きました」(同)。

shiba20210812173801.jpgウィシュマさんが飢餓・脱水状態にあることは、名古屋入管職員達も把握していた(ウィシュマさん事件の法務省/入管の最終報告より)

病状を知りながら詐病扱い、追及甘く

最終報告によれば、今年2月15日に尿検査を行った看護師から、ウィシュマさんが飢餓・脱水状態にあることが、名古屋入管の看守らに共有されていたにもかかわらず、名古屋入管が、今年3月4日の外部病院でウィシュマさんに診察を受けさせたのは、内科ではなく精神科で、しかも診察した医師には予め、「支援団体*から"病気になれば仮放免される"と言われた頃から健康状態悪化を訴えるようになった」*と、まるでウィシュマさんの症状が詐病であるかのように伝えていたのだ。 
*支援団体は否定。

2月15日の尿検査の結果で、ウィシュマさんが内科的に問題を抱えていることが判明したにもかかわらず、その後も名古屋入管側がウィシュマさんを詐病扱いしていたことについて、中間報告にはそもそも記載がなく、今回の最終報告でも尿検査の結果を受け追加の内科的検査を行うべきだったとしながらも、「医療体制の制約があった」と名古屋入管を擁護し、その悪質さへの徹底的な追及を行っていない。

何人死ねば改善するのか

shiba20210812173802.jpg
上川法相 10日の会見で (筆者撮影)

最終報告の発表に際し、昨日10日の記者会見で上川法相は入管施設での医療環境の改善や職員の意識改革などの改善策を行うと述べた。だが、入管施設の医療環境の劣悪さは、法務省が入管施設内での死亡事案の集計を始めた2007年当初から指摘され続けてきたことだ。

上川法相の下でも安倍政権での在任時を含め、ウィシュマさん他4人の外国人が入管施設内で死亡しており、特に2014年の東京入管でのスリランカ人男性が胸の痛みを訴えたが医師の診察を受けられずに死亡したことに対し、日本弁護士会が「適切な医療体制の構築」などの再発防止策を勧告していた。10日の会見で「同様の事案を二度と繰り返さないとの決意のもと、改革を実行し責任を果たしてまいります」と述べた上川法相であるが、そもそもその大臣としての資質自体が問われるべきだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通

ワールド

米、ICCのイスラエル首相らへの逮捕状を「根本的に

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中