最新記事

自律型殺人兵器

ドローンが「知性」を持ち始めた。止めるなら今だ

Killer Flying Robots Are Here. What Do We Do Now?

2021年7月6日(火)19時22分
ビベック・ワドワー(ハーバード大学ロースクール研究院)、アレックス・ソークエバー(フォーリン・ポリシー誌ライター)

だがドローンに(たとえば急速に進歩している顔認識機能とAIを組み合わせることで)人間並みの認知能力を与えれば、さほどの大物ではない独裁者やテロリスト、凶暴な10代の若者などが、米軍が使用しているような高価なドローンの何分の一かの値段で、強力な兵器を手にすることができるようになる。

そのようなドローンの開発に対抗するための具体的な措置を今すぐ取らなければ、安価なドローンを自律型の殺人兵器にする方法が、近いうちにインターネット上で公開されることになるだろう。

これまで、AIを使ってモノや人の顔を正確に識別することは難しかった。画像に文字を追加してわずかに変更するだけで、アルゴリズムに混乱が生じやすいためだ。たとえば画像認識システムにリンゴを果物と識別させるための訓練では、リンゴに「iPod」と印刷した小さな紙片を貼り付けただけで、システムが簡単に騙されてリンゴをiPodと識別した。香港の民主化デモの参加者たちは、政府の顔認識システムを混乱させるために顔にペイントを施した。

AIを搭載した認識システムは、霧や雨、雪やまぶしい光などの環境要因によって大幅に精度が落ちる可能性もある。そのため現在の開発レベルならば、ドローンに対する防御として、比較的簡単な対策で認識システムを混乱させることができるかもしれない。

だが巻き添え被害や罪のない犠牲者を出すことをなんとも思っていない者たちにとって、システムの精度はさほど大きな問題ではない。彼らが飛ばすドローンは、どのみち標的(とおぼしき対象)を殺害するようにプログラムされている可能性がある。

911同時テロさえ色褪せるような被害

それに、個々の標的に狙いを定めるドローンに対してどんな防御策を取ったところで、ドローンが新たな大量破壊兵器として配備されるのを阻止できるわけではない。爆発物を搭載したドローンの大群がスポーツイベントや都市部の人口密集地域に突っ込んで爆発すれば、多くの死者が出ることになるし、それを阻止するのは難しいだろう。

現在複数の企業が、危険な飛行物体やドローンに対抗するシステムを販売しており、進歩的な軍では既に、ドローンの制御システムを妨害する対抗措置を導入している。だが今はまだ、ドローン1機を撃墜するのも難しい状況だ。

イスラエルが最近、ドローンを航空機から破壊できるレーザー兵器の実験に成功したが、ドローンの大群をまるごと撃墜するのは、まだ非常に難しい。そして新世代の自律型ドローンに対抗するには、通信を遮断するだけでは不十分だ。無用の混乱や被害を回避するためには、これらのドローンを安全に着陸させるための方法を開発することが不可欠だ。

自律型ドローンは、大きな被害をもたらすことを重視している集団にまったく新しい可能性を開くものとなる。一日で100カ所に攻撃を行うことができれば、9・11同時テロさえ色褪せて見えるような被害がもたらされることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中