最新記事

米トルコ関係

トルコの歴史問題「アルメニア人虐殺」をバイデンが「認定」した意味

Turkish Official Slams Biden for Calling Atrocities Against Armenians 'Genocide'

2021年4月26日(月)18時30分
ニコール・フォラート
「アルメニア人虐殺」の犠牲者を追悼するたいまつ行列

アルメニアの首都エレバンで「アルメニア人虐殺」の犠牲者を追悼するたいまつ行列(4月23日) Vahram Baghdasaryan/Photolure-REUTERS

<被害者のアルメニア側や人権派の米議員は米大統領として初のこの決断を絶賛するが、トルコとの関係では障害になる可能性も>

アメリカのジョー・バイデン大統領は24日、約100年前にオスマン帝国が国内のアルメニア人を強制移住させたり大量殺害したのは「ジェノサイド(集団虐殺)」だったと認定する声明を出した。

これに対し、オスマン帝国の後継国家であるトルコのメブリュト・チャブシオール外相は強く反発。「言葉で歴史を変えたり書き換えたりすることはできない」とツイートした。「自国の歴史についてよそから教えられるいわれはない。政治的な日和見主義は平和と正義に対する最大の裏切りだ。われわれはポピュリズムに基づくこの(バイデンの)声明をいっさい認めない」

これまでのアメリカ大統領は、NATO加盟国であり中東における重要な同盟国であるトルコとの関係に配慮し、「ジェノサイド」という表現を使うことを避けてきた。この件を「ジェノサイド」と断じたのは歴代の大統領の中でバイデンが初めてであり、それ自体歴史的な発言と言える。だがこれにより、トルコとアメリカの関係がさらに複雑さを増す可能性は高い。

バイデンはアルメニア人ジェノサイド記念日にあたる24日、「毎年この日が来ると、われわれはオスマン帝国時代のアルメニア人ジェノサイドで死んだすべての人々の命のことを思い起こし、同様の残虐事件の再発防止への決意を新たにする」と声明で述べた。事件が「ジェノサイド」であったことを公式に認める発言だ。

「待望のメッセージ」とアルメニア首相

問題の事件は1915〜23年にかけて起き、約200万人のアルメニア人が強制移住させられ、150万人が命を落としたと言われる。歴史学の世界ではジェノサイドに該当するという見方が一般的だが、トルコはアルメニア人が当時の政府に反乱を起こしたためだという立場を崩していないとウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

バイデンは声明の中で、ジェノサイドの直後にアメリカに移住してきたアルメニアの人々に触れ、「彼らの(たどってきた)物語に敬意を表す」と述べた。「われわれはあの痛みを知っており、その歴史(ジェノサイド)を認める。これは非難するためではなく、同じことが決して繰り返されないようにするためだ」

バイデンの声明に賛同する人々に言わせれば、声明は「政権の外交政策の柱は人権問題だ」という彼の考えを象徴的に示している。アルメニア系移民の団体幹部はウォールストリート・ジャーナルに対し、「アメリカによるジェノサイド認定は、人権問題におけるアメリカの信用を高めるだけでなく、未来のジェノサイドの発生抑止にも役立つ」と述べた。

また、アルメニアのニコル・パシニャン首相は書簡でこう述べた。「アメリカによるアルメニア人ジェノサイドの認定は、国際関係において人権や(人道的な)価値観が最も重要であることを再確認するという意味で、待望のメッセージだった。声明は公正で寛容な国際社会の建設を求めるすべての人を勇気づけ鼓舞するような手本を示した」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期契約の伸び鈍化も安定予想 MS

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中