最新記事

大リーグ

大谷翔平は既にメジャー100年の歴史を覆し、アメリカの「頭の固い」ファンを黙らせた

The Pitcher-Slugger Phenom

2021年4月21日(水)12時20分
ヘンリー・グラバー
大谷翔平

4月4日の試合では球界トップクラスの投球と歴史に名を刻む本塁打を披露した KEVORK DJANSEZIAN/GETTY IMAGES

<アメリカで投打同時出場を果たし、剛速球と特大本塁打を披露。日本から来た26歳が「ベースボール」100年の歴史を変える>

その日、大谷翔平(26)は自らの「二刀流」の実力を見せつけるのを待ち切れない思いだったのかもしれない。

4月4日のシカゴ・ホワイトソックス戦。ロサンゼルス・エンゼルスの先発投手として1回表を0点に抑えた大谷は、直後の1回裏に「2番・投手」として打席に立つと、いきなり初球を強振した。高めの速球に対してバットを水平に振り抜いた瞬間、木が切り倒されたような音がスタジアムに響いた。

それは、大谷がボールを、そして大リーグの常識をひっぱたいた音だった。野球界には「投手と野手は分業」という考え方が長く根付いてきた。その歴史は、現存するほぼ全ての野球場よりも古い。

大リーグで先発投手が2番打者を務めるのは1903年以来のこと。アメリカン・リーグで投手が打席に入るのは、73年に指名打者制を採用して以来4人目だ。20世紀前半の二刀流選手として有名なベーブ・ルースも、本塁打を量産するようになって以降は登板の機会が減っていった。

そう、大谷は100年間続いた歴史を覆そうとしているのだ。誰だってこの若者に声援を送らずにいられない。

厳しい目で見られていた投手の能力

この歴史的な打席で大谷が放ったライナーは、右中間席に深々と刺さる本塁打になった。飛距離は137メートル。打球速度は時速185キロ。これは大リーグに現在のデータ解析システムが導入された2015年以降、エンゼルスで最速だ。大谷はマイク・トラウトやアルバート・プホルスといった強打者たちの記録を塗り替えたことになる。

大谷がホームランバッターの資質を持っていることは、誰もが知っていた。18年に大リーグにデビューしてからの成績を見れば、故障なく1シーズンを過ごせれば30本塁打を打つ実力はあるはずだ。

厳しい目で見られていたのは、投手としての能力のほうだ。右肘手術明けの19年は投手としてのシーズンを棒に振り、20年はコロナ禍により日程が大幅に短縮されたとはいえ、登板2試合、投球回数わずか1回2/3にとどまった。

しかし、4日の登板では最速162キロを記録。強打のホワイトソックス打線をほぼねじ伏せ、5回の2死まで投げて7つの三振を奪った。ただし制球には不安をのぞかせ、5つの四球を与えた。

5回表のマウンドで、とんでもない珍プレーが起きた。空振り三振に仕留め3アウト目を奪って5回を投げ切ったはずが、捕手がボールを後逸。打者振り逃げの間に走者2人の生還を許した上、本塁上の交錯プレーで転倒して降板した(大事には至らなかった)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

上院共和、独自の予算決議案採決へ トランプ氏は下院

ビジネス

ウォルマート、通期売上高は過去最高の見込み 関税の

ビジネス

スズキが新中計、31年3月期に営業利益8000億円

ワールド

トランプ氏、中国主席の訪米予想 時期は明示せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 4
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 7
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中