「口だけ立派」なメルケル時代の終焉で、ドイツに押し寄せる厳しい現実
GERMAN POLITICS BACK
メルケル引退が迫り、9月の総選挙では政権交代の可能性が MICHAEL KAPPELERーPOOLーREUTERS
<メルケルの引退が迫るなかで与党CDUは迷走しているが、今こそドイツは巨大な構造的課題に取り組むべきだ>
アンゲラ・メルケル時代が終わりに近づいている。その評価はどうであれ、2005年11月にドイツ首相に就任して以来、メルケルは独自の姿勢を貫いてきた。
政治における一時代が静かに幕を閉じることはまれだ。ドイツ政界のムッティ(お母さん)の「長いお別れ」も例外ではない。ここへきて、ドイツ政治はようやくヒートアップし始めた。
ドイツは相次ぐ地方選挙や州選挙、9月26日には総選挙が行われる「スーパー選挙イヤー」を迎えている。3月14日には、皮切りとなる州議会選が2州で実施された。結果が示したのは、メルケルの出身母体キリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が下野する可能性だ。
バーデン・ビュルテンベルク州とラインラント・プファルツ州で実施された議会選では、CDUが大敗を喫する一方で緑の党が躍進し、自由民主党(FDP)も安定した支持を集めた。今や緑の党、黄色がシンボルカラーのFDP、赤を象徴とする社会民主党(SPD)がタッグを組む「信号連立」の誕生が噂され、政権交代のシナリオが突如、現実味を帯びてきたようだ。
メルケル政権に対しては、新型コロナウイルス対策をめぐる批判が膨らむ。マスク調達に絡んで連立与党議員2人が巨額の金銭を受け取った汚職疑惑も持ち上がった。
キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の権力の真空状態は、いまだに解消されていない。CDU現党首のアーミン・ラシェットは説得力に欠ける指導者で、よりカリスマ性のあるCSUのマルクス・ゼーダー党首と跡目争いをしている。国政選挙では数十年にわたってCDUの地盤だった2州での大敗、緑の党の着実な伸長はCDU・CSUが迎えかねない破滅的事態の前兆だ。
メルケル時代は、中国の巨大輸出市場の開放というグローバル化の絶頂期とほぼ一致していた。だが国内政治では、改革への抵抗が目立った有言不実行の時代として記憶されるだろう。数々の作業グループが設立されたものの、特筆すべき結果は生まれていない。
確かに、11年の福島第一原発事故を受けてドイツは脱原発に舵を切り、15年には大勢のシリア難民などを迎え入れる決断を下した。だが、こうした達成は例外だ。