最新記事

ドイツ

「口だけ立派」なメルケル時代の終焉で、ドイツに押し寄せる厳しい現実

GERMAN POLITICS BACK

2021年4月7日(水)17時03分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
ドイツのアンゲラ・メルケル首相

メルケル引退が迫り、9月の総選挙では政権交代の可能性が MICHAEL KAPPELERーPOOLーREUTERS

<メルケルの引退が迫るなかで与党CDUは迷走しているが、今こそドイツは巨大な構造的課題に取り組むべきだ>

アンゲラ・メルケル時代が終わりに近づいている。その評価はどうであれ、2005年11月にドイツ首相に就任して以来、メルケルは独自の姿勢を貫いてきた。

政治における一時代が静かに幕を閉じることはまれだ。ドイツ政界のムッティ(お母さん)の「長いお別れ」も例外ではない。ここへきて、ドイツ政治はようやくヒートアップし始めた。

ドイツは相次ぐ地方選挙や州選挙、9月26日には総選挙が行われる「スーパー選挙イヤー」を迎えている。3月14日には、皮切りとなる州議会選が2州で実施された。結果が示したのは、メルケルの出身母体キリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が下野する可能性だ。

バーデン・ビュルテンベルク州とラインラント・プファルツ州で実施された議会選では、CDUが大敗を喫する一方で緑の党が躍進し、自由民主党(FDP)も安定した支持を集めた。今や緑の党、黄色がシンボルカラーのFDP、赤を象徴とする社会民主党(SPD)がタッグを組む「信号連立」の誕生が噂され、政権交代のシナリオが突如、現実味を帯びてきたようだ。

メルケル政権に対しては、新型コロナウイルス対策をめぐる批判が膨らむ。マスク調達に絡んで連立与党議員2人が巨額の金銭を受け取った汚職疑惑も持ち上がった。

キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の権力の真空状態は、いまだに解消されていない。CDU現党首のアーミン・ラシェットは説得力に欠ける指導者で、よりカリスマ性のあるCSUのマルクス・ゼーダー党首と跡目争いをしている。国政選挙では数十年にわたってCDUの地盤だった2州での大敗、緑の党の着実な伸長はCDU・CSUが迎えかねない破滅的事態の前兆だ。

メルケル時代は、中国の巨大輸出市場の開放というグローバル化の絶頂期とほぼ一致していた。だが国内政治では、改革への抵抗が目立った有言不実行の時代として記憶されるだろう。数々の作業グループが設立されたものの、特筆すべき結果は生まれていない。

確かに、11年の福島第一原発事故を受けてドイツは脱原発に舵を切り、15年には大勢のシリア難民などを迎え入れる決断を下した。だが、こうした達成は例外だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝

ビジネス

豊田織機が株式非公開化を検討、創業家が買収提案も=

ワールド

クリミアは「ロシアにとどまる」、トランプ氏が米誌に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中