最新記事

米犯罪

娘は14歳で殺された 銃犯罪、被害者家族の「喪失の日々」

“The Pain Never Ends”

2021年4月8日(木)12時16分
ジェニファー・ガッテンバーグ(マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件犠牲者の母親)
筆者の娘ジェイミー

愛する娘のジェイミーを失った苦しみを乗り越えることはできない COURTESY ORANGE RIBBONS FOR JAIME

<銃乱射事件で犠牲になった高校生の母親が語る。「今すぐ銃規制の強化が必要であることは、一瞬でいいから私と入れ替わってみれば分かる」>

2018年2月14日、フロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件で、娘のジェイミーが殺されてから3年が過ぎた。

3年間──。長い時間のように聞こえるが、私にとっては今も昨日のことのようだ。

事実、なぜ私がいまだに事件を「乗り越えて」「前へ進む」ことができないのかと不思議に思う人々がいる。でも、それは容易なことではない。

愛する者をあれほど暴力的に奪われる。その苦しみの現実は過酷だ。眠れず、事件当日の一部始終がたびたびよみがえる。事件後の数週間、数カ月間、数年間の出来事も。

トラウマを受けた脳は決して回復しない可能性がある。自分自身を守ろうと脳は激しく活動するが、それでもこぼれ落ちてしまうものがある。

頭がぼんやりして、名前や単語を思い出せず、何を考えていたのか分からなくなることがしばしばだ。常に疲れ切っているが、正義を求めて闘い、愛する者の名をとどめるために力を奮い起こすことはなぜかできる。

ソファにも食卓にも、車の中にも愛する者の姿が欠けている。家族が不完全になり、元には戻らない。休日はほかの人たちが家族の集まりを楽しむなか、墓地で過ごす。お祝いをすることはなく、昔はこうだったと思い出にふける。

今の私は未来に向けて生きるのでなく、その日その日を生きている。1日を終えるだけでも十分に大変で、未来があるかは分からないから。

公正な裁きを辛抱強く待とうとしているが、それは無理だ。事件をめぐる公聴会のありさまを目にしているし、裁判自体も延期され続けている。

私たちはずっと「あの人たち」であり続ける。わが子を悲劇的な形で失った人たちだ。その喪失が、アメリカ各地の子供、10代の少年少女、大人が「もううんざりだ」と声を上げるきっかけになった。

悲劇的事件に飛び付く人

銃乱射事件は捏造で私の娘には何も起きていないと、常軌を逸した陰謀論を唱える人々は、一瞬でいいから私と入れ替わってみるべきだ。穴のあいた心を抱えて生きる意味が分かる。悲劇的事件に飛び付いては忘れ去る議員たちが、さらに心を傷つける。

あの頃、より厳格な銃規制法が存在していたら......。

犯人が自宅に所持していた銃器の1つで、私の娘と16人の人々が追い詰められた。犠牲者のうち3人は勇敢な教職員で、残りの14人は素晴らしい若者だった。危険で不安定と見なされる人が銃を手にすることがないよう、身元確認を強化することも必要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中